第13話

文字数 1,354文字


んだよ…。昨日帰ってる時に言えたろ?玄都がいるってさ。なんも言ってなかったじゃん。

誠斗(マコト)、いろいろと複雑な気持ちを抱えての塾帰り。
今日は習字の帰りだ。絵ほど好きではない習字は、母親との約束のもと、今年で辞める。サッカーの練習時間が多くなり、レギュラー入りしそうなので、やりたい方を選んだ。母は、誠斗がしている習い事等に口を挟んだことはない。が、やりきりもしないで一度やりだしたことを辞めることは許さなかった。
約束とは、“自分なりの答えをだし、しっかりと説明が出来ること”だった。習字を続けられるか、日数を見て考えたが、無理だったので、サッカーを選んだ。決して苦手だからということのみで切ったわけではない。けれど、絵ほど好きではないこともちゃんと伝えた。隠し事は、自分を助けることにはならないと思うから。母は、全てを聞いて、了承してくれた。
俺は、隠し事が出来ない。したくない。こういう親の元で育ったせいかもしれないが、まあ、性格もあるかもしれない。
真称は、知れば知るほど

多い。わざとではないことも分かるけど、どうしてそこまで自分自身を適当に扱えるのかと腹が立つ。隠れて泣いてたり、傷付いてたり、どーしてあいつはそうやって1人で抱えて…。
「って…今回のは…別に泣いてた訳じゃないか…」
今日の習字では、文字が乱れに乱れて、仕上がらなかった。師範にも今日は帰れと言われ、20分も早く帰ってる。いつもは日が暮れてるが、今日はまだ明るい。
「はあ……何してんだ、俺……」
右手に習字セットの入った鞄を持ち替え、左手をズボンのポケットにいれる。
さあ、気持ちを切り替えて、帰ろうととした時、後ろから聞き馴染みのある声で俺は名を呼ばれた。
「マコ?あれ…帰り?」
考える間もなく、振り返る。
「お、おう、マホロ、」
「今日は習字?」
「うん、そう…」

タイミングがどうよ……。

平静を装っているが、結構焦ってる。
「マホロは?どっか行ってたの?」
「うん…」
よく見ると手元にB4程度の茶色封筒があった。そう言えば(たくみ)が休んでたな。匠に連絡事項を届けるとして、まだ封筒が手元にあるってことは…。
「今から行くの?」
「うーん……行ってたんだけど…」
「え……渡さなかったの?」
「誰もいないっぽくて、置いてきていいものかと……」
真称、手元の封筒を見つめる。
「いいだろ。もしかしたら病院へ行ってるとか、用事があって留守とか…」
「そっか…だよね。なんか不安になっちゃって、そのまま帰ってきちゃって…」
真称は、驚くほどさくさくと物事を進めてく。こういうことで、戸惑ってる姿は想像が出来ないけど…。休んだ友だちへの連絡プリントなんて、届けたらいいわけだから、郵便ポストにでも入れとけば済むことだ。不安に感じるってことは、何か引っ掛かってるのかな?
「うん……、そうだよね、もう一回行ってくる。ありがと、マコ」
「待て待て」
こいつは結局、自分で結論出しちゃうんだよ。そうやってひとりで抱えてきたんだろうな…
「一緒に行くよ」
自然に俺の選択はそうなる。
「え?いいの?」
真称の返答した時のその表情にドキッとする。
「いいよ。俺も帰るだけだし」
「ありがと。ひとりは不安だったんだ」

おーかーのー、マホロを使ってんじゃねえぞ。

意図せず彼の担任は、誠斗の恨みをかってしまった。
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