第13話

文字数 2,767文字

「食べながら話が出来るのって、楽しいね」

思わず…見入ってしまった。当たり前の事のようだけど、すごく、言葉が強く耳に残ったというか。
千穂子(チホコ)は、昼食時の事を思い出していた。
結局、明日菜(アスナ)が終わるまで待って、今、公園へと来た。尋乃(ヒロノ)真称(マホロ)はツネ様を早々に見つけ、話をしている。明日菜と由寿(ユズ)はトイレに行って、もうバスのとこに向かった。
待っていたから少し遅くに公園に着いたとはいえ、先生が言った集合時間まではまだ30分ほどある。
昼食の時、班を組んでいた子たちが急に離れた。文字通り

のだ。旅行前の事前準備時に5人班を作っていた。女子のみの5人、その時は問題なかったのだけれど…。いざ、今回、その班で活動をするとなった時に、動きが変わった。サッとテーブル席に着いた同じ班の子たちは、私たち2人が座れない場所に行った。和紗が5人が座れるところを見つけたが、そこには来なかった。おかしな行動だなと感じたけれど、和紗は「しょうがないね」と2人が座れるとこを探したのだ。たまたま春崇(ハルタカ)が尋乃のとこを見つけてくれて、そこに座ることができた。
和紗は、真称と同じところっていうのはちょっと驚いていたけど。彼女だって、闇雲に拒否する子じゃないから。それに…

「明日菜が美味しいって食べれて、嬉しい」

真称の言う言葉って、私には波長があっているのかもしれない。なんか、よく聞こえるっていうか、するんと入ってくる。
尋乃と仲が良いのが何だか納得できてしまった…。
「千穂子」
振り返ると美花菜(ミハナ)がいた。
美花菜とはクラスが一緒であったことはないが、実は母親同士の職場が一緒で、小さい頃はよく遊んでいた。
「珍しいね、話しかけてくるなんて」
「別に。避けてた訳じゃないから」
うそ……。避けてたじゃない。私が、美花菜の永朝(ツネトモ)が好きすぎて起こす言動がおかしいって言ったら、急に避けはじめたじゃない。
「なに?また言いがかりつけに来たの?」
「何よ…言いがかりって」
この間、体操服に着替えるときに、それは起きた。着替えの最中、和紗のつけていたミサンガがはずれた。それを拾おうとしたときに美花菜が騒ぎはじめた。

「私のミサンガ!盗ったの?!

あれは、私が和紗のために編んだものだ。やりはじめたクラブでのサッカー。最後の年にやっと誠斗(マコト)と話すことが出きるようになった。ほんとに嬉しそうに話すから、私から彼女へのプレゼントで渡したものだった。たまたま2人も同じ時期にミサンガをつけるようになってたみたいだけれど、私たちには関係のないことだった。けれど、永朝ラブの美花菜にとっては関係あることだったのかもしれない。
先生が呼ばれ、問題になり、和紗は関係のないものを学校に持ってきたと叱られた。結局はあれは和紗のものだから、美花菜のせいで嫌な思いをした。
「ミサンガはあったの?」
「……悪かったわよ」
「あったのか聞いてるの」
「……私はミサンガ持ってない。ツネトモとお揃い持ってるって思って、思わず言っちゃったの…」

 そんなことだと思った…

「私じゃなくて、和紗に言ってよ」
「そっちが悪いのよ、紛らわしいことするから……!」

またか……

美花菜は、きっと悪い子ではないと思う。
小学校に入る前までは、本当によく会う機会があった。まだ塾にも通っていなかったせいもある。母親が会う時には必ず会っていたし、話していても楽しかった。よく笑う美花菜は小さい時から可愛かった。
でも、今は…正直、私は好きではない。
「美花菜は悪くないの?」
「っ…それは……」
「和紗は言わないだろうけど、私は違うよ」
「千穂子……」
「私は、怒ってる。悪いって思ってないことに腹が立つ」
「何よ…知らないくせに」
「そっちだって知らないでしょ?私たちのこと」
美花菜は、唇を噛み締めると、何も言わずに離れていった。
結局、何で声かけてきたのか分からないけれど……ま、いいか。



和紗は、お茶を買いながらふとさっきの昼食の時のことを思い出していた。

「和紗と千穂子は?」

ほんと、変わってない。
保育の時に一緒だった尋乃(ヒロノ)。当時からよく外で遊ぶ子で、動くことが好きだった私とは気があった。クラスが同じになったのは最初だけで、あとは違っていた。
尋乃はちょくちょく女子の間で話題になっていた。学年で、目立っていた誠斗と永朝の幼馴染みで小学校に上がっても変わらず仲が良かったこともひとつの理由だ。そんな彼女は周囲の評価はあまり気にしていないように見えた。自分の気持ちに正直なように写った。私は、それが羨ましかった。

「うん、私もみんなと食べてて美味しい。そんで、楽しい。良かった」

飾った言葉じゃなかったな…。
途中から転校してきた真称は、色んな意味で有名だった。転校生がよく来るこの学校は、途中からかわってくることは珍しくないのだが、そんな彼女にマコやツネトモが話しかけているのが話題になった。そして3年の時に起こった5年とのケンカ。これは私たちに衝撃があった。

あの5年とケンカしたの?
え?マコと栄が助けたの?

しかも、次の年にはそのケンカ相手となぜか仲良くなってたことには、更なる驚きがあった。

あそこまでしたらもう会いたくもないでしょ?
なのになんで?
お祭りに一緒にいたけど?

噂が噂を呼んで、誰も真称と尋乃のことを悪くいわなくなった。
「はあ…」
ため息が自然に出る。
今日は焦った。同じクラスでの班活動で、まさかあんなことになるとは……。昼食の席を決めるときに何故かクラス班の3人が女子2人が座っているところに座っていた。後に理由を聞くと、アレルギー食の人は別メニューだったそうだ。先にいってくれていたら理解もできたが、なにも聞かされていなかった私と千穂子は戸惑った。思わず、ハブられたのかと思ってしまったのだ。
「まだ始まったばかりだ、うん!」
そう、楽しい思い出を作るんだ!千穂子のもとに戻ると、彼女の近くに美花菜がいた。
不意にこの間のミサンガのことが過る。何だか最近、美花菜が攻撃的なのには和紗も気付いていた。だから、足が止まってしまう。すると、会話が漏れ聞こえた。
「美花菜は悪くないの?」
「っつ…それは……」
「和紗は言わないだろうけど、私は違うよ」
「千穂子……」
「私は、怒ってる。悪いって思ってないことに腹が立つ」
「何よ…知らないくせに」
「そっちだって知らないでしょ?私たちのこと」

 驚いた……。

いつもニコニコして、怒ることのない千穂子がはっきりと言ってる。怒ってるって。私が言わないだろうけど、千穂子は言うって。
体が震えた。気持ちが軽くなった気がした。鼻の奥が少しツンとなった。
……思った、きっと私は大丈夫だ。伝えられる人がいるじゃん。
「千穂子ー!」
私の声に振り返る。
「あ、私もお茶ほしかったー」
「あーごめん。もっかい買いにいこう。あのさ、さっきの昼食の時の事だけどね……話し聞いてきたらさ……」
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