第4話

文字数 2,113文字

「待って、マホロ!」
 後ろから腕をとられて、ちょっと驚く。
「……あ、ごめんヒロノ、先に帰るの決めちゃった」
「え?そんなこといいよ…。それより、私の方こそごめんね、つい言っちゃって……」
「うううん、ヒロノは…悪くないよ…」
「マホロ…」
 帰り道の第2ポイントは、目の前にある自転車置場だ。ちょうどここが私とヒロノの住んでいる棟の中間だ。
「ねえ、マホロ。みんな怒ってないよ。知らなかったから、ちょっと驚いただけだよ」
「ヒロノ……」
 うん……、私は怒ってるかどうかっていうことではなくて、こうやって困らせてしまったことに戸惑ってる。私に関わったりすると、いいことがない……。
「ヒロノは優しい……」
「え…」
「いつも、私にどうしたいか聞いてくれるよね」
「それは…一緒にいろいろしたいからだよ、マホロも私に聞くでしょ?一緒だよ?」
「うん…そっか、……」
「マホロ……?」

 あれ……?なんか、気持ち悪い……

「ね、マホロ、ちょっとそこに座ろ」
「う…うん」
 駐輪場の橫にあるベンチに腰かける。
 足元がとっても遠くにある感じかする。
「もうヒロノ、はやいってーって……どしたの?」
 後ろから息切らして、ハルとユッキーが来た。
「ねえ、マホロ、体調戻ってないんじゃない?今ね、また顔が青いの」
「そう?よく分かってない…」
 どうも今日は調子が悪い。おかしいな…ちゃんと9時には寝たけどな。風邪でもひいたのかな……。ヒロノに変な風になってごめんねってちゃんと言いたいけど、ダメだ。もう今日は帰ろう…。
「ヒロノ、今日はごめんね。気持ち悪いから帰るね」
「うん…1人で大丈夫?」
「すぐそこだもん。ありがと」
 真称、立ち上がるとゆっくりと帰っていく。その後ろ姿をずっと見つめている尋乃。2人の姿を見て、ため息をつく春崇。
「ほら…ヒロノって…、そうだと思ったんだよ…」
 春崇の言葉を聞くや否や、尋乃の目からブワッと涙が溢れる。
「だっでーー…!」
「ああもう……、顔ふけよ。大丈夫だよ、マホロは」
「ぞうおぼう……?」
「思う思う」
「あでにな"だな"い"ーーー!」
「失礼なやつだな……」
 そのやり取りを聞いていた澄幸は、感心したように呟く。
「何言ってるかよく分かるな……」

 一方、こちら側はちょっと刺々しい攻防が繰り広げられている。
「……おい、お前ら息苦しい」
 6棟側に向かって帰っていく道中、非常にぴりついた空気感だった。俺の右橫にはマコ、オミの左橫にはツネがいる。俺とオミはふたりに挟まれる形で歩道を歩いていた。団地内の、ここに住んでいる者が使用する歩道だから、車が橫を通っていくこともない、けれど、橫一列ってのはいかがなものだろう……。それに、2人のなんやら分からん緊張感に押し潰されそうだ。
「ほっとこうぜ、サカエ」
 オミは我関せずだが、それでもうっとうしいと思っているに違いない。
 いつも問題の中心にはいないマコが、挙動不審だ。ある一定の方向だけ見ない。その一定の方向にはツネがいる。ツネは無言で一点を見つめている。
 だいたい、帰る方向が真逆なのに、わざわざこっちに来て、何やってんだよ……。
「そういえばオミは、今日遊べるの?」
「おう、5時まで大丈夫」
「5時……ああ、迎えか? …マコ、ツネ、お前らはどうすんの?」
 “え”って顔になってるマコを見て、俺とオミは呆れてしまった。
「家までついてくるとかいわねえだろうな…?」
 オミの問いに言葉を飲むマコ。これは…ついてくる予定をしていたな。
 俺は大きくため息をついた。
「荷物おいてくるだけだろ?ついてくるなって。その間に、話し、つけとけよ」
「サカエ……」
「俺とツネとの話じゃないだろ?マコとツネだろ?たぶん……」
 どうしてこんな雰囲気になってるかは…結局、マホロの発言なんだろうな、たぶん。

「みんなのこと裏切った?」

 どうしてそうなる?よく分からんが、別に言う言わないは勝手だろう?そりゃ、内緒にしてたのかなってことは思うけど、だからってダメなのか?ユッキーだって言ってたじゃないか、「ふーん…」って感じだって。
 マコとツネを見て、ふと思う。
 2人にはどんな風に見えてたんだろう?
 俺には、変な言葉のチョイスだって違和感があった。これまでの関係性がなかったら引いてしまうよな。たかがクラブ活動だぞ?それぞれの自由じゃないか。それを…どういう理屈なんだろう?もともとマホロの反応って、俺らとちょっとだけズレてんなって思ってたから、まあ、マホロってそう思うんだ~ぐらいの感想だけど。マコとツネはもっとマホロに近いのかな?
 それは、俺の考えることじゃないか……。
 なんにしろ、こういうときは、自分たちで決着をつけるのが一番だ。俺とオミは、2人を残して家に向かった。
 まあ……俺の中には、いつもリーダー格な2人がどうやってケンカするのか見たい気持ちはあったけど、オミの言う通り、ほっとくのがいいだろうな…。
「じゃあ、荷物おいてこようぜ、オミ」
「おう、じゃあ、タイムリミット10分なお二人さん」
 戦闘態勢のツネ。参ってるマコ。うーん、やっぱ見てようかな……。
 俺の中には別の攻防戦がちょっとだけ芽生えた。


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