第5話

文字数 2,248文字

家に帰ってから、誰もいない居間で、寝転がっていた。点けたテレビからはニュースが流れていたが、なんだか難しくて。頭の中に入ってこない。

ピピ、ピピ……

体温計が鳴る。
おお…38度…。
急激に上がったのかな?だから気持ち悪かったのか……。熱が上がってきてたから妙にしんどかったのか……。
自分の体のダルさに納得をしたからか、気持ちの悪さが、少しましになった気がした。
しんどかったが、寝室に移動して布団をひく。寝巻きに着替えると、冷蔵庫から麦茶を出して、コップにいれる。ひとくち、ふたくち飲む。喉を冷たい麦茶が通っていくと、ああ、熱があるんだな~と温度差を感じた。頭を冷やすアイスまくらを冷凍庫から出し、タオルでくるむ。
とにかく寝よう……。きっと起きたら熱も下がっているに違いない。
布団に潜り込んで体を伸ばすと、あちこちが痛い気がした。

間接が痛いって…こういうことか…

妙なことに感心しながら、目をつむる。
マコ、いつも困った時に声をかけてくれる。それを考えると、私は自分勝手だったかな。ツネ様も分からないことを教えてくれるし、そうだな……確かにひどいのかも。ヒロノ…、あんな困った顔をさせたいわけではない。
何故だろう……?みんなの顔が浮かんで、ちょっと寂しい。



しっかり全快だ。
あれから翌日は熱が下がりきらず、学校を休んだ。1日ぐっすり寝て、しっかり食べたら、頭の中はスッキリしていた。心なしか体が軽くなった気さえする。
「おっ、マホロ、おはよう」
歩道橋を上ったところで、ユッキーに会う。
「おはよう」
「もう大丈夫なの?」
「うん、スッキリしてる」
「よかった~、じゃあ、こっちの問題もスッキリさせてよ」
「?」

こっちの問題……?

「あ、ちょうど来たーツネ!おはよー!」
「え、」
私の後ろにツネ様が来たようだ。
「おはよう、ユッキー。おはようマホロ」
少し息が上がっているような……。
「おはようツネ様」
「体調どう?大丈夫なの?」
「うん、スッゴく寝たから、頭も体もスッキリしてる」
「よかった…」
別に、ツネ様の笑顔はいつもの通りだけど…。ユッキーの顔を見ると、目線でくいっと“あっち”というモーションが……
その視線を追って見ると、前方にマコがいた。もう少しで歩道を降りてしまうマコ。

ん? まだ、マコ、怒ってるの?

私がそっと指差すと、ユッキーが激しく首を縦にふる。

ああ……怒ってるのか…、ん!よし!

私は元気になったし、あんま引きずりたくないし、マコとは友だちでいたいから。
ランドセルのアームをぎゅっと握って、少し小走りに前方へ。
「マコ」
手の届くところまで来て声をかける。
「うわっ…!」

うわっ…?

明らかに驚いて振り返る。
「おはよう…って、そんなに驚かなくても」
声をかけたときは、平坦な歩道にいた。
「…お、おはよう。突然声かけるから」
「それは悪かったわね」
「……も、大丈夫なん?」
「うん、めちゃ元気」
「そか……」
マコは、こちらを見ない。リュックについてるお守りをずっとつついていて、なんだか言いにくそうにしている。なんだか、いつも見ているマコじゃない。
「ねえ、マコ」
「おう…」
「休む前のことだけど、」
「お、おう…」
「知らせてなくてごめんね」
「い、いや…それは…」
「えっと、たぶん長く通うとか無理だと思ったのもあるんだ」
「……え…?」
マコがはじめてこっちを向いた。
「たぶん、すぐやめることになると思うから、言っちゃうと恥ずかしいでしょ?」
「……嫌だったってことか?」
「違う、楽しいよ。上手ではないけど。でも、たぶん続けられない」
「楽しいならやればいいじゃねえか」
「……そうだね。そうなるといいけど」
「……マホロ、何かあるのか?」
「何もないよ。今回はそんなことだったんだ。ごめんね、これからは気をつける」
最初から、正直に言えばよかったのだろうか?私は、その良し悪しも分からない。私が言う言わないが、そんなに関係してくるとは思えない。でも、思っていることを伝えられるのなら、伝えたいと思い始めている。その程度が分かんないけど、聞いてくれるなら、伝えたい。
「俺も、ごめんな」
「何で?マコ、悪くないじゃん」
「……おまえさあ、よく悪くないって言うじゃんか、まあそうかもしれないけど、俺はさ、俺の言ったことで、お前がしんどかったんだろうなって、思ったわけだよ」
「そんなことないけど…」
「まあ、俺の勝手な思い込みでこうじゃないと、友だちだからって押しつけちゃってたって言うか…まあ、謝りたかったんだ。それに裏切ったってことではないし」

ああ、そんなこといったね…私……

「騙そうと思って、いい顔してるのが“裏切る”ってことだろ?マホロは俺たちを騙してやろうって思ってる訳じゃないって、俺たちは知ってる」
「…マコ…」
「あ?」
「かっこよい…」
「あ…?な…おま、人が真面目に…!」
「私も、真面目に、ごめん。私が悪い。ヒロノにもちゃんと謝っとく」
「お?お、おう…。だな、うん…」
「もう、怒ってない?」
「え?おれ?怒ってないよ。え?誰情報よ」

あれ?

「ユッキーが…」
「ほう……」
マコの視線が若干後ろを歩いていたユッキーに飛ぶ。
「俺、用事できたわ…」
「ええ?もう校門なのに?」
何らかの危険を察した澄幸が、歩調を早めて急いで校門をくぐる。
「ユッキー!」
「わあ、マコ!おはよう!さよなら!」
「待て!リレ選、なめんな!」
隣からすごい勢いで走り出るマコ。
「さすが…」
そのあとにスッと入ってきた永朝。
「マコとの話しは終わった?」
「ツネ様?」
「僕は怒ってないよ」

……うーん、ホントに?

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