第27話

文字数 2,246文字


 はぁ……

 僕は、ちゃんと笑えていたのだろうか?
 誰がはじめて食べるだよ。チュロス、食べてるだろ?サッカーの遠征先でも、家族で旅行へ行ったときでも食べてるじゃないか。よくそんな言葉がポンポンと出てくるよ。
「僕って意外と適当なのかな……」
「それはないだろ」
 気がつくと横にはオミがいた。
「オミ…」
「自分のことを考えるっていう習慣がないんだよ、たぶん」
「え…」
「え、真称(マホロ)だろう?ツネとマコがそういう顔してお門違いなこと言ってるときってマホロが絡んでる」

 ……違うとは…言えない……。

「みんなさ、いろいろ違うからさ、気づいたら出来ることするでいいんじゃね?少なくとも俺はツネがすることについては信用してる」
「オミ……ほれそうだ」
「……受けてたとう」
 僕はホントに、いい友だちと出会えた。
 真称もそう思ってくれたらいいな…。
永朝(ツネトモ)……」
 聞いたことある声が、僕の名前を呼んだ。
 振り替えるとそこには美花菜(ミハナ)がいた。今、他のいつメンは少しはなれた場所で、ウォーターアトラクションを楽しみ中だ。
「あれ?どしたの美花菜(ミハナ)
「……ちょっと話したいことあって……」
「そうなの?分かった。オミ、今回僕パスするって言っといて」
 オミはチラリと美花菜を見ると、少し考えてから「分かった」と言った。
「後で来るって伝えるわ」
「うん、サンキュ」
 手をヒラヒラさせてみんなのところへ行くオミ。

 “後で来るって伝えるわ”

 ちゃんと来いってことだな。
 思わず苦笑する。
「で、どうしたの?」
「うん。旅行中、あんま話してなかったから」
「そうだね。お互い班も違うし……」
「けれど、同じクラスだわ!」
「……そ、そうだね」
 話を遮るように勢いのある言い方に、少し気圧されてしまった。もともと美花菜はあまり語気を荒げて話すタイプではない。コロコロと笑い、ゆったりと会話する子だ。言葉はタンポポの綿毛みたいに軽くて、優しい…はずなのだけど……。
 僕の戸惑いを余所に、美花菜は真っ直ぐこちらを向いていた。
「あのね、永朝(ツネトモ)
「う、うん」
「……そのミサンガ」
「え?」
「つけてるやつ」
「え?これ?」
 左手につけてあるミサンガを見せる。
「そう……。それ、どこで買ったのか聞きたかったの」
「ああ…、いつも行く駅前のスポーツ店だけど?」
 美花菜はキョトンとしてこちらを見ていた。
「え……なに?」
「………すぐ教えてくれるんだ…」
「え?だってどこで買ったか聞きたかったんだよね?」
「そうだけど…」
 なんだか、不服そうな顔をしているが…どうしてだ?
「……んと…他に用がないなら行くけど」
「え?」
「美花菜も班の人があっちで待ってるよ」
 美花菜の後方で待っているグループを指し示す。
「……いいの!別に!いつも一緒だから……」
「……美花菜、それは……友だちに悪いんじゃない……?」
「……っ!そうじゃなくてっ……まだ話せてないからっ!」
「え? ミサンガのことじゃなかったの?」
「ち、違うわっ」

 ん?

 思い当たることがない永朝は首をかしげる。
 他のこと…で何かあったのかな?
 どういうわけか一向に話さない美花菜。まあ、話そうという雰囲気はあるのだけれど、視線があったり、はずしてみたりと何だか落ち着かない。

 なんだ?

「……どうしたの?美花菜」
 5分ほどの沈黙が続いたため、さすがに永朝も業を煮やし、言葉をかける。一瞬、ピクリとしたように見えたが、返事はなかった。
「おーいっ!ツネー!次いくぞー!」
 僕の背後から誠斗の声が飛んできた。
「今行くよー!」
 僕はそう答えて、美花菜に向き直る。
「呼ばれてるから行かないと……」
「……っ 分かった……」
「じゃあね」
 僕は駆け足でマコたちと合流した。
「悪い、待たせた」
「いや、そんなに待ってないから、気にするな」
 2mほど先の方には真称、尋乃、玄都(ゲント)春崇(ハルタカ)澄幸(スミユキ)(サカエ)(タクミ)がわちゃわちゃと話しながら歩いている。
 僕の右にはマコ、左にはオミがいた。
「次どこ行くか決まった?」
「ああ。ライドシューティング」
「いいね。それならみんな出来るかも」
「まあ、それはそれとして…」
 突然、マコが肩をガシッと組んできた。
「なっ…んだよ」
「なんの話だったんだよ」
「はあ?」
「美花菜だよ。呼び止められちゃってさ」

 はあ?

「やめとけって、マコ」
「いやいや、オミだって気になるだろ?」
「あのなあ…」
「ツネって人気あんの分かってねえからさ」
「はあ?! なんの話だよ」
「え?コクられたんじゃねえの?」

 はああ?

 オミ、呆れた顔してため息をつく。
「おまえは人のこと言ってる場合か?」
「え?あのシチュエーションはそうだろ?」
 次は僕がため息をついた。
「なわけないだろ?ミサンガどこで買ったのかって聞かれただけだよ」
「ミサンガ?」
「僕とマコで買った願掛けミサンガ」
「ああ、これ?」
 マコ、左足ミサンガを指差す。
「そう、それ」
 僕を挟んでマコとオミは顔を見合わせ、ため息をつく。
「教えたんだろう?ツネは」
「うん、教えたよ」
 再び顔を見合わせる二人。
 居心地が悪くて、思わず口を挟む僕。
「何だよ、何もおかしくないだろ?」
「ツネってさ、時々ぬけてるよな…」
 と誠斗。
「妙に素直って言うか、天然っていうか……てか、マコは人のことだと分かるんだな……」
「なんだよ、俺のことはいいんだって」
「いや……おまえら似た者同士だって」
「「似てねえわっ!」」
 美花菜の話したかったことって何だったのか気にならないわけではなかったが、みんなで遊ぶ楽しさに気持ちがいってしまって、そのままになってしまった。
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