第8話

文字数 1,388文字

8。

「ヒロノ!もうその辺にはいないよ!」
ユッキーがヒロノの腕をとって止める。
「だって!盗ったんだよね?!坂下がマホロの物、盗ったんだよね?!
ただいま協議中です。
トイレから帰ってきたら、みんながざわついていた。ツネ様が私のリュックを持ってきた。リュックについていたマスコットが……

確かにちぎれてるけど……

リュックからぶら下がっているヒモをとる。それを見てヒロノが怒ったのだ。
「なんなのあいつ!こうも絡んでくるかな!」
「マホロ、間違いない?」
丁寧に聞いてくれるツネ様。怒ってくれるヒロノ、心配そうなみんな。
「うーん……どっかで落ちたかもしれないから、いいよ」
確かに、今朝までついてたから、その可能性もあるけど、落としたかもしれない。それに、私の中にはみんながいうほどの怒りがない……。ほんとに、ああ、ないな…そうなのか、持ってかれたかもしれないのか…そうなのか…って、これ以上の何ものでもない。
「マホロ!あんたね……!」
「ヒロノ、いいの、ありがと。ほんと、いいの」
尋乃(ヒロノ)の目を見て笑った。嘘はない。本当にそう思ってるから。すると、気持ちが通じたのか、ヒロノから怒りが消えてく。
「マホロー……」
言葉にはしないが、しょうがないな~っていう気持ちがこぼれている。
「もう……!お弁当食べよ!そのあとはバドしよう!ダブルス戦ね!」
「うん。お腹空いた」
せっかくみんなと遊べて、おむすびも作ってきたのだから、何だか分からないことで時間をとることにしたくないし、私のことは別にいいのだ。男子はもうほとんど食べ終わっていたので、私とヒロノは急いで食べる。

「ねえ、マコ」
俺のとこにツネがくる。2人が食べている間、先に終わった俺たちは弁当を片づけていた。
「坂下って、やっぱり……マホロにからんでるよね」
「他にどー見えるんだよ」
「……怒ってんの、マコ」
「ほんとに盗ったんなら、気分悪ぃだろ」
俺たちが見ている目の前で、なんてことないみたいに盗ったんだよな。あいつ……。
「マホロって、なんで怒んないんだろ」
「え……」
ツネが食べ終わった弁当をしまいながら言う。
「たぶん、坂下が盗ったんだろうけどさ、普通怒るじゃん。マコみたいに…」
「まあ……なんでだろ…」
マホロは…俺たちと喜怒哀楽のタイミングが違うみたいだ。カズイの時にも思ったけれど、自分のための気持ちではないみたいに見える。
「あのさ…」
「ん?」
「坂下、この間から病院の近くでよく見るんだよね」
「お前の親父さんの病院?」
「そう。もしかしたら風邪引いたかもだけどさ、一人でいるんだよな。病院に一人って目についちゃうだろ?」
そうだな…。
俺はペットボトルのお茶を飲んだ。2コ上で、普段ならよほどのことがないと絡まない上級生。向こうから寄ってきてるように思えてならない。そう思えても、マホロはスルーしてるから、あまりこだわるのもおかしいのかもと思うけど……。まあ、俺がイラついたってしょうがないよな…
「あーあ、…バド、苦手なんだよな」
「気が合うねマコ。俺も……」
ツネと目が合い、おもわず笑ってしまう。
気にはなるけど、引きずってるとマホロの気持ちをおいてく感じがして、よくないよな……。俺もマホロには弱い…

ん?

思わず動きが止まる。
「マコ、どうしたの?顔が赤いけど…」
「……! な…なんでもねえ」

坂下がなぜマホロのモノを盗っていったのかは、ずいぶん後で分かることになる。






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