第24話

文字数 2,260文字

2日目は、平和に過ごせた1日だった。
おかしな言い回しだが、初日が濃かっただけに、何ともゆったりとした、本来の「修学」旅行といった感じだった。
メインと言える城と遺跡の探索では、由寿(ユズ)明日菜(アスナ)がめちゃくちゃ張り切って行動してくれた。そのお陰で、時間に余裕ができた。
「知らなかった……明日菜(アスナ)って城に詳しいんだ」
私たちは、集合場所に20分ほど早く到着した。あらかじめ決まっているルート3パターンからひとつ決めて巡るという、このスタンプラリーのような活動。実は人気があった。自分達である程度決めて巡っていくのが、ちょっと高学年ぽいし、城の中や外をああでもないこーでもないと、ワイワイ話しながら行動するので、学習というよりレクのようで、自由度が高かったためだろう。記載しなければいけないプリントはあったが、それもクイズのようで楽しめるものだった。
スムーズに関門を突破できたのは明日菜のお陰だ。
今は、自販機で購入したジュースを飲みながら、近くにあったベンチに座ってみんなの到着を待っている。そこで私が思わず言ったのだ。
明日菜はふんわりと笑った。
「ふふふ。好きなんだよね~。こういう構造も、どうしてこんな風に造ったんだろ?とか、隠れた作り手の思いを考えるとぞくっとする」
「ぞくっと?それはまた不思議な感覚で……」
「ふふ、そう?」
城に入る手前でもらったパンフレットを熟読しながら微笑む明日菜。
「明日菜って、動じないところがねねさまっぽいな」
と、由寿(ユズ)
「え、秀吉の正妻の?」
「そう。浮気性の旦那でも動じないで、正妻として立ち振る舞っていた人。“ねねさま”は、自分ってものがしっかりとあったんだなって…まあ…ボクが勝手にそう思うんだけど」
「流されない的な?」
「そう。頑固なところ?」
「それってほめてる?」
「リスペクトしておる」
由寿の顔を見て、私と尋乃は互いの顔を見合わせた。きっと私と同じことを思ったんだと思う。
由寿は気づいてないかもだけど、明日菜の話をする由寿はとても可愛い。和らいだ頬のあたりがふんわりと笑みを作り、ちょっと紅潮する。雰囲気が温かいというか、日向ぼっこのような、そんな空間ができている気がする。
「にしてもさ、明日帰るって…何だかあっという間だね」
尋乃、大きく延びをして手足を伸ばす。
「ほんと。すごく事前学習した気がするけど、来たらあっという間」
真称(マホロ)もそう思うのか?」
「ん?」
「あっという間って」
「うん、思うよ」
「そうか…それは楽しいということだな」

あ……

「良かった」
由寿の言葉に、気持ちがふわりと軽くなった。
そうか…、そうだ……私は、この時間を楽しいと思ってる。

ここにいていいって…思っちゃってる…。

急に実感がわいて来た。何だか胸の奥がぬくぬくだ。
「真称ー!尋乃ー!」
呼ばれて振り返ると、永朝(ツネトモ)春崇(ハルタカ)丈臣(タケオミ)澄幸(スミユキ)がいた。
「わ、意外!2番だよ」
「わ、意外ってなんだよ」
「え、思ったより早かったなー……」
「分かっとるわ!言いたいことは!」
尋乃とハルの漫才を横目に、思わず苦笑いのその他大勢……。
「早かったんだね」
ツネ、マホロに話しかける。
「うん。明日菜がね、城大好きっ子だった」
「ほんと?」
ツネ様、ビックリして明日菜を見た。
「へへへ。ほんとは熊本城が一番好きなんだけどね」
この発言に反応したのはオミだった。
「え!マジか!俺も熊本城好きだぜ」
「ええ!ほんと?オミくんも?」
「マジマジ。加藤清正が好きでさ」
「そうなんだ~。私はあの風貌って言うのかな~。どーんと構えてる感じが好きです」
「確かに最強って異名が合うよなー」
すっかり意気投合。
「マホロは平気?」

ああ、きっと、昨日のこと…心配してくれているんだ。

「うん、ありがと。尋乃からいろいろ聞いた。ごめんね」
「なんでマホロが謝るの?ちゃんとみんなでここに来られて良かったよ」
「うん……」
「……あのさ」
「ん?」
「……前にも言ったかもだけどさ、俺たちさ、仲間じゃん。だから……いいんだよ。謝られるより、もっと良い言葉があるでしょ?」
にっこり笑ったツネ様。少し恥ずかしさで眉がピクッてなる…。大人から言われてるみたいな物言いに、こそばゆいような…。
「……あり…がとう…」
ツネ、「うん」と小さく返事する。
「で、あいつらなんなの?」
「あいつらて……」
ツネ様、表情や態度はいたって普通なんだけれど、ひょっとして怒ってる?
「だってさ、旅行中だよ?騒ぎ起こさないでしょ?」

それはそう……

「うーん……、私の近くにいたのは遊陸(ユウリ)っていうの。あそこにいた5人とトラブってる感じだった」
「え、巻き込まれたの?」
「うーん……そうかな?なんか…よく分からない…。前いた時に何かあったのかな?とも思ったけど覚えてないし」
「やっぱ前の学校だったの?」
「そうみたい…ほんと記憶力なくて、申し訳なく……」
もごもごとしてしまっている私に、ちょっと苦笑気味のツネ様。
「いいよ、思い出さなくて」
「ツネ様?」
「……それよりさ、たぶんマコが明日どーする?ってまたミーティングすると思うよ」
「はは、言えてる……今回はペンギン見れなかったから……あ…」
「ん?」
ペンギンの話を出した途端に、ふわりとイルカショーの会場で感じたゾクッと感が過った。
「いや…、私…イルカショーの会場で……」
「ん?会場で?」
「あー……」
私は苦笑する。
「うん、なんでもない」

あの時感じたゾワゾワ……

つい、ツネ様に話しそうになった。
ちょっと気持ち悪かったから、何だか怖いなというか……。でも、ツネ様に話すことじゃないよね。
思わず言いそうになった自分に歯止めをかけた。
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