第9話

文字数 1,434文字

「最初はエール交換だから、6年が中心で声出すから」
白組の団長は6ー1の藤代(フジシロ)くんだ。あまり詳しくは知らないが、足が早いと女子が騒いでいたのを聞いたことがある。応援団は、各クラスから2名ずつ出されるので、6年8名、5年8名の16名いる。
男女比は7割は男子だ。6年女子の団員は3名、5年も3名だ。
「エール交換のあと前年度優勝の組から応援合戦が始まる。白は後攻だな。いくつか代表的なのやって、ウェーブやって、歌って、終了って感じ。じゃあ、早速覚えるか」
流れの説明をしたあと、藤代くんは1拍子から3▪︎3▪︎7拍子までマンツーマンで教えるように指示を出した。私とタクミには2組の6年が教えてくれることになる。
「マホちゃんか。覚え早そう」
平良(タイラ)さん、2組だったんだ」
ショートカットの黒髪で、スラッと身長の高い平良さん。縦割り掃除班で、前に一緒の班になったことがあった。
「もう一人の男子が……」
(タクミ)です」
「うん、よろしくね」
平良さんは、目立つ方ではないが、とても分かりやすく丁寧に教えてくれるから、5年の女子の間では、優しいお姉さんで名が通っている。掃除はもちろんだが、クラブ活動や委員会活動など、上級生が下級生に教える場面って結構多い。特に5年生が6年生から教わる機会は、その比じゃない。教えることが得意な人ばかりではないので、時にはよく分からないいまま終わってしまうことがある。
平良さんは、よく聞いてくれて、分かるまで結構付き合ってくれる。実は尋乃の憧れの6年生である。

これ話したら、尋乃に羨ましがられるな…

尋乃の悔しそうな顔を思い出して、顔がほころぶ。
「ちゃんと教えてください」
「教えてるだろ?!」
私のほんわかした気持ちをガツンと打ち崩す声が聞こえた。

え……?なに?

ちょい前辺りで教わっていたはずの5年が6年と揉めている……?
タクミと視線が合う。
「誰か揉めてる?」
「うん、多分…この声は玄都(ゲント)だと思う」
タクミの口から出た名前にクエッションマークの私。
「ゲント…」
「うん。5年になってから転校してきたんだけど…。あれ?この間100m走でマコたちと走ってたけど…覚えてない?」
「ああー…、それ、ちょっと見てないんだ」
「そうなの?」
そう言えば、マコたちの様子がおかしかったような…。
「なにやってんの、6年…。松田かぁ…」
平良さんがため息をつく。
「6年生の方、松田くんっていうんですか?」
「え、うん…。4組なんだけど、ペア誰だろ?ちょっとごめんね」
そういうと、平良さんは仲裁に行った。藤代くんと平良さんが松田くんをなだめている。
「……大丈夫かな?」
タクミが不安そうに呟く。
「平良さんが行ったから大丈夫だよ」
匠、真称を見ると苦笑いした。
「マホロって、ほんと、うろたえないよね」
「え?そんなことないけど……」
「クラスでトラブルあっても、動揺してないっていうか…」
私は、タクミの言葉にちょっと驚いていた。そんな風に見えていたのか…。
「私だって驚いたりするよ?」
「はは、そうだろうけどさ、落ち着いて判断してるっていうか。同級生っぽくないっていうか…、他人事っていうか…」
一瞬、2人の間に静かな()が……
「言えば言うほど…ドツボ」
タクミの一言に思わず2人で笑う。
そうしていると、平良さんとそのペアの6年生が戻ってきた。
「ごめんね、2人とも待たせちゃって。4組さんも一緒でいい?」
平良さんが玄都を連れて戻ってきた。ちょっとバツが悪そうに平良さんの横にいる彼は、軽く頭を下げた。
私と匠は顔を見合わせた。
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