第23話

文字数 2,159文字

「もう、ホントに心配したんだからね」
「うん……」
真称(マホロ)は、私から離れたらダメなんだからね」
「うん…」
「…ごめんね、マホ…」
「…なんで尋乃(ヒロノ)が謝るの?」
ここはバスの中、無事に集合場所にたどり着き、何事もなく水族館を出発することが出来た。点呼を済ませて、それぞれのバスに乗り、宿泊場所に向かっている。
車内は、活動を目一杯楽しんだせいか、寝ている者が多く、今朝よりずっと静かだった。先生も寝ている。
あの後…
マコに連れられてあの場所から脱出ができた。なぜ、あそこにいたのがみんなにわかったのかは分からないが、マコは何も聞かずに、繋いだ手をぎゅっと離さずに、集合場所までつれてきてくれた。私たちの後ろからはツネ様とユッキー、オミがついてきていた。どこから出てきたの?と驚いたと同時に安心している私がいた。大丈夫だって思ってる自分がいた。ぞわぞわが消えていた…。
集合場所にはみんながいた。そして…ハルの横には泣きそうな尋乃がいた。
マコの手が離れて、「後でな」と言って1組の列へ戻って行った。私は今にも叫びだしそうな尋乃の側に行くと、何も言わず尋乃がぎゅっと抱き締めてくれた。
静かな車内で、コソッと話しかけてくる、尋乃。
「…何があったか…聞いたらしんどい?」
尋乃は、私の顔をチラッと見て、また視線をそらした。戸惑っているのが分かる。私に気遣っているのね。私が傷つくのを怖がってるんだ、きっと。
「うううん。大丈夫…。あのね」
「うん…」
私はゆっくりと、尋乃と離れた後の事を話した。


「何それ……」
ここに来る前の学校の子に会ったこと、私は覚えてなかったけど、双子の兄弟に絡まれ、果ては覚えてもなかった数人にも巻き込まれ、何だかよく分からないけどトラブルっぽかったことを話した。
「うん……なんだろね」
私は、手元のお茶のペットボトルを開け、一口飲む。イルカショーが行われる場所でのことは、思い出すと何だかちょっと苦しい。
「大丈夫?」
ちょっとした変化をも見落とさない尋乃。
「うん、大丈夫」
「あのね…、明日菜(アスナ)由寿(ユズ)真称(マホロ)を見かけたらしくてね、声かけようとしたんだって。でも紺色リュックの子が来て、様子がおかしかったから、明日菜がマコを呼びに行って、由寿はマホを追いかけたって」
ああ、そうだったんだ。じゃあ、私の名を呼んだのは由寿で間違ってなかったんだ。
「マコとツネが玄都(ゲント)に言って、イルカショーが始まるって言い回ったんだよ」
「……あ、だから人がたくさん……」
「うん…私が見つけてたらタックルして、どついて、ひっかいてやるわ!」
「尋乃、ダメだよ。尋乃が怪我するのやだよ」
尋乃は、私の手をぎゅっと握った。
「もう離しませんから」
「……むふ」
「お?」
尋乃、両手で私の手を包む。
「一生大切にするわ」
「それは……幸せそう」
「それはもう……」
尋乃の真剣な表情に思わず笑みがこぼれる。尋乃もはにかんだように笑う。

ありがとう、尋乃。

乾きかけていた胸の奥の方が、少し楽になった気がした。



一方、1組車内。
誠斗(マコト)は…

なんだよ……あいつら……

俺が到着したときには、由寿(ユズ)から聞いていたやつらなのかどうなのか…。何だか人数も増えていて、状況がよく分からなかった。
どうしてマホロが誰だか分かんないやつらに絡まれているのか、どいつにうでをひっぱられたのか、誰がマホロに害を為したのか、ペンギン見たかったんだよ、あいつは!
どいつもこいつも蹴散らしたかった。が……

「ここは学校じゃないだろ……僕たちのテリトリーじゃないよ」

ツネのやつ……冷静だったな……。

いる場所が分かった時点でツネが案を出した。イルカショーの場所に人を呼び込み、その混乱に乗じて真称を連れ出すというもの。あいつの頭の中、どんななのかわかんねえけど、瞬時に思い付く辺りさすがだ……。
にしても、危なかった……。もうちょっと遅かったらヤバかった。ギリだよギリ……。
掴んだ手は震えてたんだ。そりゃ、怖いよな……あんな状況……。
「マジ、ないわ……」
あいつらの顔……、覚えてるかんな……。


となりに座っている玄都(ゲント)は…
少し別のことを考えていた。
イルカショーに人を集めようと、イルカショー始まるって、と言い回ったとき、声をかけてきた男子がいた。
「真称の友だち?手伝うよ」
思わず急いでいるのに足が止まった。そいつは紺色リュックを持っていて、明らかに怪しかったのだけれど、手伝うという言葉は嘘だとも思えず…。

《回想》
「……いろいろ思うとこはあるけど、今お前を100%信じることはできないな」
「だな…。じゃあ、俺の顔と同じやつがいる。真称と一緒にいる。それは傷つけようとしてるわけじゃないってことは言っとく」
「同じ顔…?」
「双子なんだ」
「え…」
「……でも、結果、巻き込んでごめんな」

紺色リュック集団が俺らの後に集合がかかっていた。声かけてきたやつと同じ顔のやつをチラッと見かけた。何事もなかったみたいに集まりやがって、と思ってガン見してしまった。だが、やつが見てたのは違う方向だった。その視線を追うとその先には真称(マホロ)がいた。見ている目が……、あれは俺たちと似てる。何となく追いかけてる目、良かった、寂しい、そんな複雑な()……。
「…………うん、俺って詩人」

後方で栄は思っていた。
前、マコとゲント《ふたり》はやかましい方が変な緊張はしなくてすむなあ…と。
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