第3話

文字数 2,063文字

3。

学校から帰った後、いつもの集合場所に来た。俺、ツネ、ヒロノ、ユッキー、ハル、マコ、サカエはきたが……
「今日は来ないんじゃない?いつもは最初に来るじゃん」
ユッキーが言う。
「そうかも……ねえ、あの後、どうだったのよ。1組終わったとき、もう2組終わってたでしょ。マホロに私たち会ってないの」
ヒロノが2組の俺とツネを交互に見る。
俺たちは目を合わせた。
「え…何かあった?」
ハルが言う。
「オミ…」
ツネからの“話したら?”っていうパスだな、これは…
「うーん……、あのあとさ、マホロがなかなか帰ってこなかったから、先生に言われて保健室まで迎えに行ったわけよ。戻ってくるときにさ、後方校舎の1階にある大会議室から山下先生の声が聞こえてきてさ……」
「山下先生?確か今年は6年担任してる」
さすがユッキー、学校内のこと、よく知ってるんだよな。
「そう。あの会議室ってさ、よくトラブルがあったときに使われてるだろ?話し合いに。で、俺はまた6年、何かあったのかぐらいに思ったんだけど……」
俺は頭かきながら、溜め息をつく。
「なに…もったいぶんなって」
マコがちょっといらっとした様子で俺たちを見る。
「……山下先生の漏れてきた言葉は“またか坂下”って。それ聞いて、マホロが大会議室に飛び込んじゃってさ」
「え……」
ツネと俺以外、動きが止まった。

【回想】
止める間もなくマホロは大会議室の扉を開けた。中には山下先生ともう一人女の先生、そして坂下とあと2人6年生らしき男子がいた。突然扉が開いたものだから、中にいた人たちは驚いていた。
「誰ですか?ここは使用中ですよ」
中にいた女の先生が注意する。
「すみません。行こうぜ」
俺はマホロの腕を取り、引っ張った。
「山下先生、カズイの姉のマホロです。これは、カズイがケガをしたことと関係ありますか?」
俺は、あまりにスラスラと、また、怖じ気づきもせず、年上ばかりがいるこの空間で発言しているマホロに驚いた。しっかりとした声で、質問も分かりやすかった。
「真称さんか。一維さんは君の弟だったか」
「はい…」
山下先生はマホロと俺がいる入り口まで来た。
「まだ聞き取っている最中だからね、分かってないことがあるんだよ。でも、一維さんがケガしたことと、ここで話し合いをしていることは関係がある」
「そうですか…。もし…もし、この間あったような理由で一維がケガをしたのなら、私は相手を許しません」
「…………そうだな。この間と言うのは真称さんがケガしたときのコトかな?」
「はい…」
「……話を聞き取って、謝罪する前に真称さんにも話をするよ。それまでは教室で授業を受けなさい。」
「……わかり、ました」
つかんだ腕からマホロが手にぎゅっと力をこめたのがわかった。
扉を閉めて、階段を上がっていくとき、マホロが呟いた。
「……悔しい」
俺はなにも話しかけることができなかった。急がないと行けなかったけど、隣でずっと下を向いているマホロは、もしかしたら泣いているかもしれない…そう思ったら、もっと時間をかけて階段を上らないと、と思った。


「え、じゃあ、山下先生来たの?教室に」
ハルが言う。
「来た。僕がその流れ知ったのって、帰り道だったから、何で山下先生がマホロを連れていったのか、その時は分からなかったんだけど」
「あのさ……」
栄が口を開いた。
「全部じゃないけど、オレたち、見たんだよね。なあ、ハル」
「まあな、近くを通りかかったから……」
そう言えば、呼びに来たのはサカエだったな。
「どんな感じだった?」
「見たのは…6年の何人かが、倒れている1年に声をかけたり、起こしたりしているとこ。女の先生が駆けつけてきて、“カズイくん”って言ってたから…もしかしてって思ってさ」
「サカエ、マホロに弟がいるの知ってたの?」
ヒロノが不思議そうに言う。
「実はさ、オレ、妹がいてさ、同じ保育園で一個下なんだけど、保育のお迎えで見たことあってさ。たぶんそうだと思って…」
「妹いるの?知らなかった…」
「まあ、離れてるからな。で、ハル、見たんだろ?」
「見たって言っても、そこにいたのを見たってだけだけど……」
「なんだよハル。なに見たんだよ」
マコのやつ…なんでそんなにいらっとしてんだ?いつもチャラけてて、あんま怒ったりはしないやつなんだけどな…。
「坂下だよ、ヤバイって顔した坂下」
「ええ~、なんでこんなに絡んでくるかな~嫌な感じしかしないじゃん」
ヒロノが嫌な気持ちを隠さずに言葉にする。
「じゃあ、マホロは嫌な話聞いたかもね」
ツネの言葉にみんなが口をつぐんだ。
「帰りの会にはいなかったのか…」
マコが言う。
「帰りの会よりちょっと前に山下先生が来たんだ。帰る準備してたからそのまま教室を出たんだよ。終わってから僕たちが下駄箱にいった時にはマホロの靴はなかった」
そう、待つつもりでいたけど、靴なかったんだよ。ツネとおかしいなって思いながら帰ってきたんだ。
「……俺……ちょっとマホロんとこ行ってくる…」
え?
「え、マコト?!
走っていくマコを見送りながら、思っていた。マコってマホロのこと……? まさか…な…?
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