第6話

文字数 1,662文字

6。
夏休みにはいる前の学校は、どこかみんな落ち着かない。目の前の長い休みにワクワクが漏れてしまっている。
けど、まだ6月なんだけどな…。確かに後半だけど…。私はあまり長い休みが好きではないので回りの気持ちが分からずちょっと困惑する。その上……
「マホロー、プールだよー着替えだよー行くよー」
これ。今の私の悩みの種は。
机に伏せる私のプールセットをしっかりロッカーからもってきてくれたヒロノ。
「着替えがあるからいくぞー」
「うえー、ヒロノ~、嫌だよ~プール~」
「ハイハイ。ほんと苦手だよねマホは。涼しいじゃんプール、行くよ」
「ヒロノさん、元気……」
「そう!私は元気!はい行くよ~」
ヒロノに引っ張られ、プールまで行く。着替えはプール横の部屋で着替えるのだ。
水泳を習っている者が多くて、ここの学校はほとんどの子たちが泳げる。私は全く泳げない。というか……水がちょっと怖い。
ごそごそ着替えると、部屋を出てプールサイドで待つ。プールキャップは小学校1年生の時に通っていた学校で買ったものなので、私は白だ。でもみんなはオレンジ色だった。
「色違うやついるやん」
 そう、これもいや。いつもは気にならないんだけど、プールはほんと好きじゃないから、何もかもが嫌に感じる。
「ほっとけよ、マホロ」
着替え終わった2組男子も集まってくる。
「あれは3組だ。ほっとけ」
プールの授業は2組合同だ。今回は3組とである。
「マコ知ってる子?」
「おう、2年まで一緒だった、丈臣(タケオミ)。賢いんだよな、あいつ。塾が同じ」

マコって塾も行ってるんだ……

マコはひとこというと、男子の塊に紛れていった。サカエと一言二言会話し、笑ってる。2人とも水泳は得意そうだ。立ってる様子がビクビクしてないもん。だんだん人も多くなってきて、先生も4人集まったところでチャイムが鳴った。
ああ……授業が始まる…。


ピッ、ピッ、…………
順番にビート坂を持って25mを泳いでいく。うーん、溺れない、溺れない、きっと大丈夫。小プールだし、足はつくし…
よし!
順番が回ってきた。

ピッ!

息を吸って顔をつける。プールの側面を蹴り、伸びる。いつもここまでは順調なんだけどな。ばた足をする。進んでいる気はするんだけど……。顔を上げて息をする。真ん中くらいまで来てるかな?横を見るともう一緒に出発した人たちはいない。
大分遅れて25mを泳ぎきる。プールから上がり、ため息が出る。

うわー……わかっていたとはいえ……

へこむ……。
「おまえ泳げないんだな」
え?
後ろから声が聞こえて思わず振り返る。
さっきの男子だ。
「帽子も白いし目立つなー」
「だから何」
「……足はうまいから後は手をしっかり伸ばせばいいんじゃないの?」
「え?」
「俺、水泳も習ってんだよな。だから……まあ、そうすれば進むんじゃねえの?」

手か……。

「こう?」
ビート坂をグッと前に伸ばす。
「ひじをしっかり伸ばして」
ひじか……
「こう?」
丈臣はチラッと見ると“いいんじゃない”と言った。
「……やってみる、ありがと」
「うまくいってから言えや」
再び最後尾に並んで順番を待つ。手を、っていうか腕をまっすぐ伸ばす!よし!
「なんか言われたの?」
マコが横に来て声をかけてくれた。
「ひじ伸ばしてってアドバイスくれた」
「え、タケが?」
「うん」
「…へえ……」

この日、足つかないで最後まで泳げた。決して早くはなかったけれど嬉しかった。
授業が終わり、着替えて教室に帰ろうとしていた真称と尋乃の前を丈臣が通りかかる。
「あ……」
「あ?」
思わず声が出て、呼び止めたかたちになってしまった。
「あの、泳げた。ありがと」
「……よかったな」
ボソッと言って教室に入っていった。
「え、あいつ帽子違うとか言ったやつじゃん。何があった?」
ヒロノは私の肩をグイグイ掴んで揺らす。
「んー、泳ぎ方を教えてくれた」
「はあ?どゆことよ」
「うーん、私が一番分からん」
最初の印象はよくなかったけど、そんなに悪いやつじゃないのかも。だって、ちょっと泳げたし……。
単純ながら、苦手な水泳を克服出きるかも?って思わせてもらえた。
「タケオミ」古風な名前だ。
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