第17話

文字数 2,150文字

「それは…大変だったね」
芝生の広場にあった木製ベンチに、(タクミ)と私が座り、ツネ様、マコ、玄都(ゲント)は芝生にじかに座っていた。何でここにいるのかと聞くので、心配だったから会いに来たと伝えた。
すると、匠は、えっ?て顔をして驚いていた。ストレートに風邪で休んだのかと聞くと、この2日間あったことを話してくれたのだ。それは何だかどこにでもあることのようで…、私たちはただ聞いていた。聞き終わったあと、ツネ様が、ポツリと言った。
「ん…。何かわちゃわちゃしちゃって…」
匠が申し訳なさそうに下を向いた。
 
ことの発端は、最近ちょっと大人びてきたと話していた4番目のアコちゃんが、洗濯物をとりこんでいる匠に注意をしてきたそうだ。入れ方が雑だから服がシワになるとか。いつものように、ハイハイと聞き流していたところ、その日に限って、アコちゃんがやると言って、ベランダに出てきた。匠の家は6階で高いから、ベランダに出るのは禁止だった。匠は、慌てて、出てきたらダメだと、危ないからと、抵抗をしてベランダで揉み合いになり、洗濯物が下に落ちたそう。それに驚いて、大きな声を出してしまった匠に、アコちゃんが驚いて、ベランダから部屋に入る(へり)につまずいて頭を打ってしまった。
「踏んだり蹴ったりだな……」
玄都が呟く。
「アコは泣きじゃくるし、モトムもそれ見て騒ぎ出すし、ちょうど帰ってきた兄ちゃんが何事かと急いで入ってきてモトムとぶつかってさ……」
 
それは…まるで、ドミノ倒し……

「モトムって言うのは…?」
「ああ、3年の弟。で、兄ちゃんが父さんに連絡とって、帰ってきてもらって、病院へ行って…。モトムが兄ちゃんとぶつかった時に近くにあったイスにもぶつかって、あざができちゃって。アコも頭打ってるしで、大騒ぎ。翌日はモトムは大事をとって休み。アコもなんだか行きたがらなくて…。両親休みとれないから、俺が休んだんだ」
「じゃあ、昨日プリント届けたときにいなかったのって……」
「ああ、あれって真称(マホロ)だったの?ありがとう。ちょうど、病院へ行っててさ。アコが頭痛いっていうから、母さんと3人で行ってたんだ。父さんとモトムと下のチビは買い出しで、兄さんは部活があったんだと思う。ごめんね、ちょうど誰もいなかった」
「うううん、いいの。大変だったんだもん」
匠は大きな溜め息をついた。
「今日は、疲れちゃって寝てたんだよね。父さんと母さんは仕事行って、兄ちゃんは学校。俺も行かなきゃだけど、眠かったし、疲れたなーって」
「今、何してたの?」
「ああ、えっとね……」
匠はポケットから小さなおもちゃの指輪を出した。
「アコがさ、洋服のポケットに入れてたみたいなんだよね」
3人は気付いた。
「もしかして、取り込むときに騒いだのって……」
「そ。これが見つかると恥ずかしかったのかも。それか……」
「保育園に持っていってたのかもって気付かれたくない的な……?」
私の呟きに、匠は苦笑する。
「やっぱそう思う?俺もそうかなって……。落とした洗濯物を回収して、たたんでたら、アコがさ、自分の服のポケットのとこ、こっそり探してたから、聞いたんだ。そしたらこれがないって言うから……」
「……探したのか」
玄都が言う。
「うん。今、見つけた。あってよかった…」
「良い兄ちゃんだな、匠は」
「ええ?んなことないよ。良い兄ちゃんはこんな騒ぎ起こさないって…もう、落ち込むよ……」
頭を抱える匠を見て、4人は顔を見合わせた。
「何に落ち込んでんだ?」
と、誠斗(マコト)
「あのなあ、起きる時は何やっても起きちゃうんだよ、トラブルってのは」
「マコ……」
「出来ること、してんじゃんか。迎えに行ったり、洗濯物?入れたりさ…。兄弟の面倒だって見てるんだろ?すごいよ」
「まあ、匠の言いたいことは分かるけど、大人みたいには俺たち無理だよ。でも、匠はやっぱり良いお兄ちゃんだと思うよ。でないと、探さないよ、その指輪」
「玄都……」
「俺は探さない。それ以前に俺の妹は俺に話してくれないと思う。話してくれるってことは、安心してるんだろうと思うよ」
匠はちょっと驚いていたが、いつものように恥ずかしそうに笑った。
「なんか……すげえ嬉しい…」
誰も悪くなくても、誰かが悪いみたいになることがある。その方が気持ちが落ち着くって人が多いからかな…。でも、現実は、何だか分からないけど、結果、見えてるとこが良くないってことがある。難しいな……。
「よし!頑張った匠に俺たちからエールを送ろう!」

おっと……急にどうした玄都……

「おっ、いいなそれ」

さすが、似た者同士の誠斗……

私とツネ様は思わず顔を見合わせる。
「おい、やるぞ!赤は赤ので。白は白ので」
「待てよ、僕は応援団じゃないぞ」
「ツネは俺と一緒にいて、分かってるだろ?」
「知ってるけどさ」
知ってるんだ……。
「いくぞ!構えて!」
なんだか流されるように、匠を残して立ち上がると、匠に向いて構える。玄都が息を吸い込む。
「この2日間!精一杯頑張った匠にー!よく頑張ったことを称えてー!3▪︎3▪︎7拍子ー!そーれっ!」
「タン・タン・タンっ!」
「「「はい!」」」
「タン・タン・タンっ!」
「「「はい!」」」
「タン・タン・タン▪︎タン・タン・タン▪︎タンっ!」
「「「はいっ!」」」
「タクミー!よく頑張った!」
匠の泣き笑いの顔が見えた。
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