第8話

文字数 1,644文字



 うーん…これは苦しいわ…

 朝から重たい頭を机の上に乗せて、唸っている尋乃(ヒロノ)
 決して体調が悪いわけではない。まあ、でも…見方によったら体調悪いとも言えるか……。
 原因は昨日の岡野っちの呼び出しだった。

 【回想】
「失礼しまーす」
「おお、こっち!」
「は、はい……」
 名乗る前に待ち構えていました、とばかりに声がかかる。その勢いにちょっと引いてしまった。
「ごめんな。ちょっと聞きたいことがあってさ」
「何ですか?」
「1組の和紗(カズサ)さんと千穂子(チホコ)さんの事なんだけどな」

 和紗と千穂子?

「え?和紗たちって1組でしたよね?」
 岡野っちは3組担任だったと思うけど。
「ま、そうなんだけどな」
 こいこいと手招きするので、更に近づくと、
「ちょっと3組女子とトラブルがあったんだけど……」
「え?和紗が?まさか」
 思わず心の声が口からポロリと出てしまった。私の知ってる和紗はまっすぐな子ではあるが、周りとの調和もとれる子だ。一方的に自分の意見だけを突きつける子ではないので、それだけでトラブルの大半は回避できる。
「んー……。3組の美花菜(ミハナ)さんがな」
「げっ…」
 急いで口を押さえる。

 私のお口って正直者……。

「げ?」
「いえ……」
 美花菜……。永朝(ツネトモ)大好きっ子で、その歴は小学校入学前からだ。父親が同じ大学出身だったかな?その繋がりから幼いときから会う機会が多く、彼女の想いは常にツネ様に向いていた。保育で仲良くなった私たちより長い付き合いだが、ツネ様はどうやら苦手のようで、今のところ彼女の一方通行である。
 想いの熱い彼女は、小学校入学時に“ツネ様と仲が良い女子”って私がインプットされ、誤解を解くのに大変だった記憶がある。だからだと思うけど、実は、少し苦手なんだよね~。
「美花菜がトラブったって言ってきたんですか?」
「そう。体育で着替えする時に彼女がしていたミサンガがとられそうになったっていうんだ」

 おっとー

「あの2人はクラスも一緒だったことはないから、ちょっと気になってね。なんか知ってるかと……」
「…………あの、いろいろいいたいことはあるんですけど、どうして私に聞くんですか?」
「尋乃さんって和紗さんと千穂子さんと友達でしょ?なにか聞いてるかもしれないと思ったんだけど」

 ってことは

「まだもめてるんですか?」
「いや……その件は終わったんだけどね」
 終わったならもういいではないか、と私は思いながら、美花菜のことを思い出すと、終わらないかもとも思った。
「なにも知らないですよ。そんなことがあったことも知らなかったです」
「そうか…、分かった。悪かったね」
「いえ……」
 岡野っちて、先生っぽくないところがみんなの受けの良さだけど、真称(マホロ)はちょっと距離をおいてる感じがする。最近は誠斗(マコト)もその傾向ありだ。マホロに触発されてんのかなぁって、漠然と思っていたけれど、なんか分かった気がする…。先生ってやっぱり“先生として”の動きをしてくれないと、私たちは不安になるんだ…。


「尋乃?体調悪い?」
 同じ目線にしゃがんで、視界を合わせた真称が問う。いつの間にか真称が登校していたらしい。
「おはよー…」
「おはよう。どうした?あ、昨日はありがとうね」
「うん。今日はどう?」
「ちゃんと薬飲んできたから平気。それより尋乃がしんどそう」
「……うーん、そうね、頭がボンよ」
「…………長休みに中庭行く?」
 教室で話しにくいことがあると、私たちは中庭に場所を移して話をすることがあった。
「いく」
 私は、職員室を出てから、いろいろ考えた。和紗が美花菜のミサンガを盗ろうとした?絶対にあり得ない。だいたいミサンガってしてきていいの?
 まあ、そこじゃないか…。もし事実だったとして何か理由があるだろうし、

っていうのも引っ掛かる。どういう状況だったんだろう?いつの話しなわけ?女子間であまりそういう話になってないけど、私が知らないだけ?
 それに2人には接点がないよな…。美花菜と和紗はタイプが違うから、グループが違うし。

 うーーー…

「頭パンクする……」
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