第9話

文字数 1,513文字

「……てことなんだけどね」
長休みに、中庭で、卒業生が寄贈したベンチに座って、尋乃(ヒロノ)の話を聞いていた。ちゃんと状況が飲み込めてる尋乃は戸惑っているんじゃないかな…。
私なら、尋乃に被害が及ばない限りどうでもいいけど、尋乃は私と違って相手の立場で物事考えるから…。
「考えちゃってさ。何があったんだろうとか、聞いた方がいいのかなとかさ…」
「……あのさ、マコとツネ様もミサンガ持ってたよ」
「え?ほんと?」
「うん…なんか、この間お守り代わりに買ったって言ってたよ」
「そーなんだ。まあ、確かにさ、ミサンガってサッカーしてた人たちから広まったイメージだけど」
「うん。美花菜(ミハナ)が持ってるイメージがわかないのってさ、和紗(カズサ)がサッカーしてて、美花菜がしてないからなんじゃない?」
「ああ…!確かにそうかも…。だから結びつかないんだ…ミサンガ」
中庭に生えている樹木は、陽射しをいい具合に遮ってくれて、程よく日光が注ぐ。それでも、日焼けを気にする人が増えてきた昨今は、こういった外での井戸端会議は上級生はしない。ちょっと見上げると3階の窓ガラス越しに数名の同級生が見えた。
「ミサンガって願掛けでしょう?美花菜はなんか願掛けしてるんかな?」
私の疑問に尋乃は何か思い当たったようだった。
「ああ……そうかも」
そう呟いて苦笑する。
「マホロー!」
不意に呼ばれて声のする方を見る。
「マコだ」
校庭でサッカーしてると思っていたマコが、近付いてくる。横には永朝(ツネトモ)春崇(ハルタカ)丈臣(タケオミ)がいた。
「何?いつメン集合?」
尋乃が少し驚いてベンチから立ち上がる。
みんなが近くに来る前に、ちょっと尋乃をつつく。
「岡野っちは、たぶん、尋乃を信用してるんだよ」
「えー?」
「じゃなきゃ、内容まで話さなくてもいい気がする…」
「…はっ!なるほど。詳しく話す必要ないじゃんね…」
そう、私はそれが引っ掛かっていた。トラブルの話を関係ない尋乃にするだろうか?関係者なら分かるけど、児童に話すかな?でも、岡野っちはあるかもしれないからややこしい…。去年の(タクミ)の時のことが思い出される。最上級生としての関わりをしてくれているってことではなくて、何だか都合のいいときだけ“大人扱い”してくる感じがしてしまう。山下先生はそういう点において、安心できる。言葉は噛み砕いてくれるが、態度は砕けていない。先生であることを見せてくれている感じがする。
なんか、比較してるみたいで私の態度もちょっと嫌だな。
「2人で何してんだ?」
近付いて来てからの第一声は、マコだった。
「え?女子会。ね、真称(マホロ)
「そうね」
女ふたりで話してたんだから、間違いない。
「ちょうど良かった。修学旅行の時のさ、テーマパーク班っていつメンでいいよな」
ハル、私たちを交互に見ながら言う。
「もちろん、いいよ。真称はどう?」
「いいよ」
「みんなでジェットコースターは必須な」
と丈臣。思わず固まる私…。

 マジか

「いいね!私、何回でも乗りたい!」

あ…尋乃さん、好きそう…

「えー、俺、一回でいいや。ツネは?」
「僕は…まあ嫌いじゃないけど、何回もはさあ…ねえ、マコ」
「俺、平気」
「ああ……ふるやつ間違えた…ハルは?」
「俺も一回でいい」
「だよね。まあ、後は(サカエ)澄幸(スミユキ)玄都(ゲント)(タクミ)に声かけとかないとだね。ユッキーはジェットコースター好きだって言ってたよ」

皆さんお強くて……。

さて、苦手だと言いにくくなってしまった。一度も乗ったことはないが、たぶんダメだろうな、と予測しているのに。エレベーターが苦手だから、十中八九無理だと思う。挑戦しようとも思ってないけど……。流れで乗ることになりそうだなぁ…。など、わちゃわちゃ話しているみんなを見つめながら思っていた。

それから何事もなく修学旅行の日を迎えた。
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