第19話 それが、答えだ!!

文字数 1,696文字

 フローレスアイランドの奥深い原生林。かすかな水の気配に雨が近いことを悟ったそのとき、ふとそこに松茸らしきキノコ発見。
 手をつけるつもりはないからべつにそれほど深刻じゃないんですけどね、これ、ホントに松茸かなぁ、食えるかなぁ。

 太古から続くふかふかの森の大地に這いつくばって、松茸容疑者(キノコ)の匂いをくんくんかいだりしてたんですが、ふと顔を上げると、……! すぐ数メートル目の前を熊さんが横切って行くではないですか。
 はは、だって今日は黒熊が鮭を捕るところの写真を獲りに来たんだもんね。すぐに遭遇できたのはついてるな。

 ぼくがちょうど這いつくばっていたおかげで、至近距離なのに相手にはまだ気づかれていませんでした。だってね、黒熊さん達なんて、人間に気がついたらその瞬間に、弾丸のように一目散に逃げちゃいます。

 一眼レフのカメラ持ってきたんだぁ。でも下草が邪魔で思うように良いアングルがとれません。そうこうしているうちに熊さんはどんどん森を流れる川に向かって遠ざかって行っちゃいます。ぼくは匍匐(ほふく)前進で追跡開始。随分距離が離れちゃったけど、川べりまで来たところで夢中で写真を撮りました。すると、さっきまで這いつくばっていたところから滅茶苦茶いい距離にまた別の熊さん出現。ああ、移動して失敗した。いやあ、なかなか難しいすね。

 森の中には熊さん達が食い散らかしたドッグサーモンの死骸があちらこちらに散乱していましたが、ちょうど鮭を捕ったところ、とか食べているところっていうのには、ぼくみたいに適当にお散歩ついでに時間帯も考えずにぷらぷらとやってきているだけのにわかカメラマンには、そうしょっちゅうは見られるものではありません。でもさ、朝早く来るのとかって、眠いし寒いしめんどくさいから、まぁね、べつにい~んだ~、ホント、適当で。

 今日は松茸(らしきキノコ)を見たことだし、そうだ、このあいだインディアンの友達がくれた松茸でお吸い物でも作ろうかな。胴の直径五センチ、長さ十四センチ、傘の直径二十三センチの、でーっかい松茸貰ったんです。松茸ってさ、あんなでっかい傘、開くものだったんですね。知らなかったです。

 傘が開く前のが香りが強いとか言いますけど、家に帰ったら、ドアを開けた瞬間、もう家中キノコの香りでむせかえってしまうほどでした。きゃ~、こ、これが「モノホン」というものなのか、と感激しました。ああ、独りなのがもったいない。この体験を共有している人間がいないのが非常に残念に思います。

 うーん、いつか友達が遊びに来たときのためにさ、この松茸、なんとかとっとけないものですかねぇ。で、発表しまーす、ワタクシは、松茸の人口栽培に挑戦することにいたしましたー。これがね、成功して量産できれば世界初ですよ、松茸の人口栽培量産化。特許取ってがっぽがっぽです。うひひひひ。

 ジャガイモをスライスしてジャムが入っていた広口瓶の中に落としました。ついで砂糖をどっさり振りかけます。これを菌床として、いよいよ本体となる松茸を一片(ひとかけ)落としました。そして数日間、暖かい所に放置します。
 ある日気がつくと、ジャガイモからしみ出したでんぷんと砂糖との混じり汁でテカテカと光った瓶の底に、キノコの菌糸らしき白い物体が順調に勢力を伸ばし始めていました。

 おおっ、こ、これは! 次の日も次の日も白いもやもやは、まるでぼくの励ましの言葉を理解しているかのごとく、どんどん、どんどんと成長していきました。
 おおっ、おおっ、ええぞええぞ、がんばれぇ~、負けぇんな~。わくわく。

 やがて菌糸は瓶底いっぱいに放射状に花を咲かせたような大勢力になりました。ぼくは嬉しくってなりません。お隣のストアのおやじに自慢しに行きました。
「おじさん、見て見て。これ成功したら世界初だよ」って言うつもりだったんですが、冷静なおやじはちらりと見るや「お前、カビだらけの瓶なんて早く捨てちまえ!」て。

 ええ!? カビ? カビって……、カビかぁ。
 舞い上がってて単純なことに気づかずにいたけれど、これって、カビ? ぼくが一生懸命育ててたのって、ただの……カビ?
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