第48話 1000ドルいただき

文字数 1,677文字

 フローレスアイランドに渡る直前のバンクーバーアイランド側有名観光地トッフィーノが、突然の渇水宣言で商業施設断水。変わらず豊富に水資源のあるうちまでとばっちりを食って、ホステルの宿泊予約がキャンセルくらいまくりでポツーンとヒマになってしまいました。

 迷惑な話だなぁ……、と窓辺に吊るしっぱなしで忘れていたハミングバードフィーダーを眺めていると、ありゃ、もう九月一日だってのに、まだハチドリがいる。ずいぶんのんびりした子だなぁ。だいじょうぶかいな。

 そうか、九月か……、もう九月だってのに、今年はまだ一匹もサーモン釣ってない。
 こんなこと、ここでサーモン釣りを覚えてから六年くらい経つけど、始めてなんじゃないかなぁ。
 今年は、よっぽど必要に迫られたときか、お客さんに釣りのガイドを頼まれてなおかつヒマなときくらいしか、釣りに出かけてないからな。
 でも冷凍庫の中は魚でぎっしりいっぱいだから、あんまりやる気が出ないんです。ちょっとお客さんを案内したりするだけで、根魚類なんてどかどか釣れちゃうんですから。

 つい先日は、この夏だけでも三回も来てくれて、今や常連化している台湾のお客さんたちの案内役として、釣りに行ってきました。
 彼らはいつもだと、桟橋から自分たちで持ち込んだ釣り道具で一日中釣りをしているだけだから、こちらとしては非常に楽で、大人数だから宿の方もほぼ貸し切り状態だし、とってもありがたいお客さんたちなんです。その彼らが今回は船で大物釣りに挑戦したいと言うのです。

 まぁそれも、大人数だからぼくのチビボートじゃ到底無理だし、インディアンのガイドに頼んじゃえば、それこそぼくは一日中誰もいない家でのんびりしてればいいから楽だよね、と思っていました。

 んー、じゃあ、誰にガイド頼もうかな。いつも魚いっぱいくれるピーターがいいかな、それともやっぱり釣り名人のマイクにしようか……、てのを、ついついストアのオヤジにしゃべっちゃったら「オレの息子のキースにしろ!」って。
 え? キース……? キースは困ったな、彼はめちゃくちゃ気分屋だからね、お客の相手できるタイプじゃないんだよな。

 返事をしないでその場を立ち去ったんですが、しばらくしたら、すでにキースはその気になってて、何時に出たいのか、って聞いてきました。
「ところで、いくらで引き受けんの?」
「千ドルだ。人数次第じゃそこからプラス。トッフィーノでは一人一時間一二〇ドル、最低三人、最低三時間からなんだから、それだけでも千ドル超えてサーモンの保証も()え。俺なんか一日中連れて行ってサーモン保証付きでたったの千ドルなんて、超格安だぞ」
 べつに怒ったように言わなくたって、まぁね、まったくその通りだとは思いますよ。

「でもさぁ、一日中案内することないんだよ。ちょっとそのへんでさ、チョコチョコっと船釣りの雰囲気を味わわせてあげる程度でいいんじゃないかなぁ」
「いや、俺はサーモンもハリバット(大カレイ)もめちゃくちゃ釣れるポイントまで行くね。片道二時間はかかるし、燃料代だってバカにならないんだから、千ドルからだ」

 あ、そう、ま、お客さんの方に聞いてみるけどね。で、お客さんたちの反応は……、「ユキに案内して欲しいんだがね」
 んー、そうなるだろうと思ってた。まぁ宿はこの人たちでほぼ貸し切り状態だから、対応できないこともないけどね。でもぼくのボートじゃせいぜい三人までかなぁ。遠くには行けないし、もちろんサーモンの保証もないすよ?
「オッケー、それでいいよ。大物釣れたらチップもはずむよー!」

 さて、翌朝七時から釣りに出かけ、十分後には少年(弟)がいきなりでっかいイエローアイ(金目鯛みたいな魚)をゲット! 続いてお兄ちゃんにはこれまたでっかいリングコッド!
「金を払うのはパパなんだぞ!」
 と、パパの釣り魂に火がついた! ほんの二~三時間のつもりが、結局丸々一日釣りしてました。で、ウニやカニとかも持ち帰って、また冷凍庫満杯になっちゃいましたよ。

 宿代と釣り代とチップと合わせて、ぼくのポケット、千ドルいただき!
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