第16話 うちのバスルームはいいかおり(涙)

文字数 1,619文字

 ハチドリ達も南に渡って行ってすっかりいなくなり、昨日は久しぶりの大雨も降って、「いよいよ秋らしくなってきたかな」と実感しながら、海上バスとアホーザット村との交信を無線で聞いていると、船に家族の誰かが乗っているかどうかの問い合わせが多い中に混じって、
「ブラックベリー売ってまーす。バケツ一杯七ドルでーす」
 という子供の声が聞こえてきました。

 あはは、かわいいね。しかし、村中どこでもあふれんばかりになっていて採り放題のブラックベリーに、七ドルなんて値段付けたって売れんのかなぁ? まぁ、無茶な話だ、とにんまりしつつ、
「そうだ、ぼくもブラックベリー摘もうかな」

 目の前にあるブッシュで摘んだって、バケツ一杯くらいはすぐに溜まっちゃうもんね。
 さっそくボールを持って摘み始めました。
 いてて、いててて。野生のブラックベリーのブッシュはとげとげで痛いんですよね。うん、これは子供にはちょっとたいへん。七ドルくらい、つけたくなるか。

 でももう、たわわに実っているので、あっという間にボールが一杯になっていきます。ぼくがベリー摘みをしているのに気づいて、ウサギがそばにやってきました。
「あ、食べたいの? 食べる?」
 アヒルたちもやってきました。バリケンというかわった種類のアヒルがぼくの手からベリーをバクバク食べていきます。アヒルに夢中になっているあいだに、ウサギが地面に置いたボールに顔を突っ込んでもしゃもしゃベリーを食べていました。
「あ、君、それはちょっとやり過ぎでしょう」

 さて、けっこうな量摘んできたので、これで何を作ろうかな。一年分のジャムも作り置きしようと思ってるけど、そうだ、今日はワイン作りに挑戦しよう。お隣のジェネラルストアのおやじが作り方を教えてくれると言っていたので、早速お店に行ってみます。

「なに? ワインの作り方? ジャム作るのとかわりゃしねぇよ。煮ながらぶっつぶして、砂糖入れるんだ。でも容器はな、よく洗ったヤツを使え。雑菌が入ったらダメになっちまうからな。それでイースト菌入れて、ラップでフタして、針で穴開けて、そうだな、バスルームの湯沸かしタンクの上に置いとけ。あとは勝手にワインにならぁ」

 ふーん、そうですか。じゃあ、ってんで、顆粒のイースト菌を買ってきました。
 煮崩して砂糖入れてね、♪ふんふんふん、砂糖いっぱい入れよう、んーとね、十二カップくらいかな。容器に移して、♪ふんふんふん、んーとね、ストアの売れ残りをもらってきた牛乳が入ってた一ガロン(約四リットル)の容器しかないからね、ちょっとだめかな? ま、そこはイースト君と乳酸菌君とでお互いに折り合いをつけて貰うってことでよろしくね。

 牛乳の一ガロン容器三つ分、かなり上のところまでブラックベリーの煮汁と果肉でいっぱいになりました。
 さて、イースト菌ね、これ、どのくらい入れたらいいのかな? ま、いいや、♪ワンカップ大関~、と歌いながら一カップずつ入れちゃえ~。
 今、え?!!! て思った人いましたか? いましたよね。

 ラップでフタして輪ゴムで止めて、針で穴開けバスルームへ。いつ頃飲めるようになるのかな~、わくわく。

 それはほんの数分後のことだったと思います。キッチンでお茶を飲んでいると、なにやらプチプチプチプチ、と奇妙な音が聞こえてきました。ん? なんだろな~、なんだろう?
 気になって音のする方へ行ってみると、あ、バスルームか。ワインの発酵が始まったの? よしよし、なあんて電気をつけてみたら、驚愕しました。
 ベリーが、ベリーが、増殖してるぅ! 

 モコモコモコモコ! 
 ラップのフタが押し上げられて輪ゴムが吹っ飛んでいきました。ほとんど大爆発!
 更にモコモコモコモコ、うわぁぁぁぁぁ、凄まじい勢いであふれて止まらないその勢いはまるで土石流。三つの容器全てから、押さえても押さえてもモコモコモコ、あああああ!
 いやーん。
 も、だめ、バスルーム、死んだ。
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