第22話 ジョージ・ジョンのトーテムポール

文字数 1,467文字

 ここ、フローレスアイランドのアホーザット村と言えば、優秀なアーティストが多いことでも有名です。
 平成十四年に日本は埼玉県の三峯神社で催された、世界で七番目に発見された日本オオカミの毛皮とともに数々の芸術作品が集められた「ウルフアート展」には、特別ゲスト作品として、カート・ジョンと刑事マックス、そして刑事ケリーの奥さんのクリスの作品が、それぞれ二点ずつ展示されました。

 その他にも優秀な彫刻家、画家、ビーズアーティスト……、世界的に名の知れた人達も大勢いますが、中でもカート・ジョンの従兄弟であるジョージ・ジョン。彼の作品は評価が高い。デザインといい、彫刻の腕といい、ジョージはホント素晴らしいものを作ります。で、また人がいいんだなぁ、彼は。
 小学校で子供達に美術を教える、なんてこともしてるくらいですから、忍耐力だってあるわけです。

 あれは二〇〇一年から二〇〇二年にかけての冬でした。お隣のアホーザット・ジェネラル・ストアのおやじの家で夕飯をご馳走になっていると、突然、“ドゥーン”と凄い地響きが轟きました。
 なんだなんだ?
 見ると入り江の向こう側、ストアの真正面のあたりで、村のタグボートがなにやらすったもんだやってます。

「おじさん、あれ、何やってるんですかね?」
「ああ、ありゃあ、ジョージ・ジョンのトーテムポールのためのアラスカ杉を切り出してるんだろう」
「へぇ、ジョージ、トーテムポール作るんですか。そういや、この村、トーテムポール無いですもんね」
「昔はオレんちとお前んちの間に一本あったんだよ。それが、ある朝気が付いたら盗まれちゃってた」
「ぶふっ」
 飲んでた紅茶を噴き出しちゃった。
 トーテムポール盗む? トーテムポール盗むねぇ……。
「でも、ま、純粋にマーカトシス(アホーザット村)で制作される大型のトーテムポールとしては、今度のジョージのやつが一番初めさ」
 へぇ、そうなんだ。

 ぼくとおじさんがこんな会話をしている間にも、ジョンのタグボートは何度もアラスカ杉を森から引っ張り出そうと奮闘していましたが、そのたび地響きとともにロープが切れて、で、じきに日の入りで暗くなってきたので、その日は諦めて帰っちゃいました。

 ふーん、でも、ジョージが彫刻した戦闘用パドルとか見たことあるけど、あれもマジ、素晴らしかった。ジョージなら、きっとマーカトシスの誇りになるようなやつ、作り上げるんだろうな……、村の誰もがそう信じていることでしょう。

 さて、その二〇〇二年の夏くらいから、ぼくはちょこちょこ村に顔を出しては、ジョージのトーテムポールの制作風景を写真におさめてきています。
 しかしまぁ、ジョージはやっぱり腕がいいので、デザイン画や彫刻の注文が後から後から入ります。だからそうそうトーテムポールばかりにかかりっきりにもなれないし、ましてや学校の先生なんかもやっていたら、なかなか作業は進みませんよね。てわけで、二〇〇四年の今も、マーカトシス初の大型トーテムポールは制作中なわけであります(見学歓迎とのこと)。

 そうそう、つい先日、トッフィーノのレストランから注文された、渡りガラスのマスクを制作中のジョージを眺めていると、彼がこんなことを言いましたよ。
「オレは爺さんから彫刻を習ったんだ。オレの爺さんは、そりゃあ最高の芸術家だったんだぜ。オレはたくさんのことを爺さんから学んだのさ……。爺さんはいつもこう言うんだ。『いいかいジョージ。質問は無しだよ。ただ見る。ただ見て、そして感じるんだよ』てな」
 ね!! 素晴らしいじゃないですか。
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