第27話 キノコの墓
文字数 2,178文字
私には夢がある。
あ~いはばぁ、どりぃーむ!
ここフローレスアイランドはアホーザットのインディアン村に椎茸栽培を持ち込んで、自家栽培椎茸をビーチで串焼きにして食すことであ~る。
だって外人じゃあるまいし、焚き火でマシュマロ焼いて食ってなんかいられるか! どうせ焼くなら椎茸がいいすよ。健康にだっていいんじゃない?
せっかくカナダにいるんだから松茸でしょ? て声がカナダ在住の人たちからは聞こえてきそうですが、「山に採りに行く」というのとは思想的に一線を画しているのです。自分で育てたやつが食べたいのです。トマトだって自分が育てたやつを食べるときは、嬉しく、いとおしく、とっても美味しい(……くないときもあるけど)のです。ね? 分かるでしょ?
松茸の人口栽培は方法がまだ確立されていませんよね。この間日本で世界初、人口栽培に成功したとかなんとかニュースで見ました。(2004年)
ぼくだって一応挑戦しちゃ、います。てか、はい、ここまで読んでくださった方ならすでにご存知の、ぼくが瓶詰め栽培中の松茸菌糸。お隣のストアのおやじに「カビだ」と言われようが、ホステルのお客さんとして宿泊した日本の大学のそういう森関係の研修の先生に「ただのそこいらにある菌類だと思う」と言われようがです、性懲りもなく、というか「捨てきれず」に、まだ持ってます。
ここまで来ると、愛です。
愛ではありますが、うーっむ、これはいったいいつになったら実るかわからない、うーっむ、しかもこれ、やっぱりゴミにしか見えんな。
はっ。もしかして、もう愛じゃありませんか? 捨ててないのは、ただズボラなだけですか?
ま、いいや。松茸は自助努力をお願いするとして、こっちはこっちで日本の友達が栽培が超簡単だと言っていた椎茸栽培に乗り換えだー。
だいたいがさ、ぼくはさ、庶民派だから、松茸もいいけど、椎茸の方が好きだもんね。一年中採れるというのもいい。
カナダでも椎茸菌を売っているのも、これまた可能性を感じさせます。
よーし、早速実験だ!
友達のインディアンでここいらのことはなんでも知っているサミーが、椎茸はハンノキ系でも育つらしいぞ、と教えてくれました。
アカハンノキなら周りにいっぱい生えてます。これまた、いいね!
「エヘへ、サミー。栽培に成功したら、一緒に椎茸農家やろうよね」
「そうだな。いっちょ椎茸御殿でも建てるかね」
で、実験ですから、アカハンノキに限らず、アカスギからアラスカスギ、ベイツガにベイマツに、とにかくぼくが今まで冬の暖房用に集めた薪の中から、各種にドリルで穴を開け、それぞれに椎茸のコマ菌を打ち込んでいきました。そして家の裏手に並べていきます。
打ち込んだコマ、実に四百。いやぁけっこう大変だったぁ。
眺めていたサミーが聞きました。
「で、それ、いつ出てくるんだ?」
説明書を読むと、「げっ、翌年の秋、だって」
ハハハ、と笑ってサミーは行っちゃいました。
でもね、実はこれ、去年の春のお話なんです。つまり、今年の秋、今年の秋こそが、待ちに待った椎茸長者伝説始まりのとき(の筈)なのです。一年半、待ったのです!
ところで今年は九月半ばから、なんとまともに歩くこともままならない、厳しい状況の中にいました。
ホステルの建物はもともとは入り江の崖っぷちぎりぎりに建っていて、玄関ポーチからいきなり海上の桟橋だったのですが、ストアのおやじがこの土地を買い取った後に、家の前を数メートル埋め立てて道を作りました。その道がどんどん地盤沈下して、丘の上にあるキースの家から下りてきてホステルの配水管とつながる塩ビのパイプを押しつぶしてきているのです。
そして何度言っても、キースの奥さんも二人の娘も生理用品をトイレに流すことをやめないので、もう、配水管が詰まる詰まる。日に何度も海岸から鉄筋棒を配水管に突っ込んで詰まった生理用品を突き崩しているうちに、こっちの腰が破壊されました。
ぎっくり腰でピクリとも動けなくなり、様子を見に来てくれたサミーのボートでバンクーバーアイランドのトッフィーノに運ばれ、入院する羽目にまでなっちゃったのです。
退院してからも数日は床で這いつくばってたんですが、その間、キースがぼくのぎっくり腰の原因になった家の排水管を直すため、うちの裏にパワーショベルで穴を掘っているらしいのは知っていました。
やっと四つん這いになれるようになったので、這っていって工事の様子を窓から覗くと……あはは、排水管、塩ビから硬い鋼鉄素材のものに入れ替えたみたい。直ってよかった。
あはは、それとね、ぼくの椎茸原木、埋まってる。穴掘った残土の下に埋められちゃってる。
でも予想してたってわけじゃないけど、起こってみれば、これは驚く事態じゃありません。いや、意地でも驚いてやるもんか。だってキースってそういうこと、わざとするやつって知ってるもん。何事につけ、ものすごく嫉妬深いやつだもん。
キノコ、出るかどうかだってまだ分からなかったのに、サミーと仲良くしているのも、もう気に食わないのね。
この体でパワーショベルで埋められた土中から木を掘り出すなんて、かなりしばらくは無理でしょう。どうせきっとまたやられるし。
あ~あ……さよなら、ぼくのキノコちゃん。おーい、あはは、あははは。ぐすん。
あ~いはばぁ、どりぃーむ!
ここフローレスアイランドはアホーザットのインディアン村に椎茸栽培を持ち込んで、自家栽培椎茸をビーチで串焼きにして食すことであ~る。
だって外人じゃあるまいし、焚き火でマシュマロ焼いて食ってなんかいられるか! どうせ焼くなら椎茸がいいすよ。健康にだっていいんじゃない?
せっかくカナダにいるんだから松茸でしょ? て声がカナダ在住の人たちからは聞こえてきそうですが、「山に採りに行く」というのとは思想的に一線を画しているのです。自分で育てたやつが食べたいのです。トマトだって自分が育てたやつを食べるときは、嬉しく、いとおしく、とっても美味しい(……くないときもあるけど)のです。ね? 分かるでしょ?
松茸の人口栽培は方法がまだ確立されていませんよね。この間日本で世界初、人口栽培に成功したとかなんとかニュースで見ました。(2004年)
ぼくだって一応挑戦しちゃ、います。てか、はい、ここまで読んでくださった方ならすでにご存知の、ぼくが瓶詰め栽培中の松茸菌糸。お隣のストアのおやじに「カビだ」と言われようが、ホステルのお客さんとして宿泊した日本の大学のそういう森関係の研修の先生に「ただのそこいらにある菌類だと思う」と言われようがです、性懲りもなく、というか「捨てきれず」に、まだ持ってます。
ここまで来ると、愛です。
愛ではありますが、うーっむ、これはいったいいつになったら実るかわからない、うーっむ、しかもこれ、やっぱりゴミにしか見えんな。
はっ。もしかして、もう愛じゃありませんか? 捨ててないのは、ただズボラなだけですか?
ま、いいや。松茸は自助努力をお願いするとして、こっちはこっちで日本の友達が栽培が超簡単だと言っていた椎茸栽培に乗り換えだー。
だいたいがさ、ぼくはさ、庶民派だから、松茸もいいけど、椎茸の方が好きだもんね。一年中採れるというのもいい。
カナダでも椎茸菌を売っているのも、これまた可能性を感じさせます。
よーし、早速実験だ!
友達のインディアンでここいらのことはなんでも知っているサミーが、椎茸はハンノキ系でも育つらしいぞ、と教えてくれました。
アカハンノキなら周りにいっぱい生えてます。これまた、いいね!
「エヘへ、サミー。栽培に成功したら、一緒に椎茸農家やろうよね」
「そうだな。いっちょ椎茸御殿でも建てるかね」
で、実験ですから、アカハンノキに限らず、アカスギからアラスカスギ、ベイツガにベイマツに、とにかくぼくが今まで冬の暖房用に集めた薪の中から、各種にドリルで穴を開け、それぞれに椎茸のコマ菌を打ち込んでいきました。そして家の裏手に並べていきます。
打ち込んだコマ、実に四百。いやぁけっこう大変だったぁ。
眺めていたサミーが聞きました。
「で、それ、いつ出てくるんだ?」
説明書を読むと、「げっ、翌年の秋、だって」
ハハハ、と笑ってサミーは行っちゃいました。
でもね、実はこれ、去年の春のお話なんです。つまり、今年の秋、今年の秋こそが、待ちに待った椎茸長者伝説始まりのとき(の筈)なのです。一年半、待ったのです!
ところで今年は九月半ばから、なんとまともに歩くこともままならない、厳しい状況の中にいました。
ホステルの建物はもともとは入り江の崖っぷちぎりぎりに建っていて、玄関ポーチからいきなり海上の桟橋だったのですが、ストアのおやじがこの土地を買い取った後に、家の前を数メートル埋め立てて道を作りました。その道がどんどん地盤沈下して、丘の上にあるキースの家から下りてきてホステルの配水管とつながる塩ビのパイプを押しつぶしてきているのです。
そして何度言っても、キースの奥さんも二人の娘も生理用品をトイレに流すことをやめないので、もう、配水管が詰まる詰まる。日に何度も海岸から鉄筋棒を配水管に突っ込んで詰まった生理用品を突き崩しているうちに、こっちの腰が破壊されました。
ぎっくり腰でピクリとも動けなくなり、様子を見に来てくれたサミーのボートでバンクーバーアイランドのトッフィーノに運ばれ、入院する羽目にまでなっちゃったのです。
退院してからも数日は床で這いつくばってたんですが、その間、キースがぼくのぎっくり腰の原因になった家の排水管を直すため、うちの裏にパワーショベルで穴を掘っているらしいのは知っていました。
やっと四つん這いになれるようになったので、這っていって工事の様子を窓から覗くと……あはは、排水管、塩ビから硬い鋼鉄素材のものに入れ替えたみたい。直ってよかった。
あはは、それとね、ぼくの椎茸原木、埋まってる。穴掘った残土の下に埋められちゃってる。
でも予想してたってわけじゃないけど、起こってみれば、これは驚く事態じゃありません。いや、意地でも驚いてやるもんか。だってキースってそういうこと、わざとするやつって知ってるもん。何事につけ、ものすごく嫉妬深いやつだもん。
キノコ、出るかどうかだってまだ分からなかったのに、サミーと仲良くしているのも、もう気に食わないのね。
この体でパワーショベルで埋められた土中から木を掘り出すなんて、かなりしばらくは無理でしょう。どうせきっとまたやられるし。
あ~あ……さよなら、ぼくのキノコちゃん。おーい、あはは、あははは。ぐすん。