第13話 マックス刑事登場

文字数 1,518文字

 カナダ西海岸、フローレスアイランドにあるヌー・チャ・ヌルス族の村アホーザット・ビレッジ。人口約八百人のこの村の治安を維持する、RCMP(カナダ王室騎馬警察隊)のインディアン刑事達。
 こういう隔離された小さなコミュニティでは、職務と私生活があまりにも密着しすぎているため、そのたいへんさといったら聞いていて気の毒になるくらいです。

 些細な日常のもめ事から若者達のけんかの仲裁、行方不明のキャンパーやカヤッカー、釣り人達の捜索等、何もかもたった二人の正規の刑事と数人のボランティア達とで処理しなければなりません。
 村と入り江を挟んで向かい側に、一人ポツンとぼーっと暮らしているぼくは、インディアン刑事達にとっては、唯一仕事を完全に離れた立場でつきあえる格好の遊び相手と思われていたようです。

 彼らの任期は二年ずつで次の新任オフィサーと入れ替わるのですが、彼らの去り際にはいつも、ほとんど引継のひとつのように「ゆきを釣りに連れて行ってやってくれ」という言葉が交わされます。

 サスカチュワンの平原インディアン「クリー族」の刑事マックス。そしてマックスの同僚、カムループス近辺の山岳インディアン「シューシュワップ族」刑事ケリー。
 この二人のアホーザット村赴任時代は、本当によく一緒に遊んだものでした。

 しかし、大きなお祭り(ポトラッチ)があって一晩中トラブルの処理に明け暮れる勤務が終わった直後の明け方や、夜十時を過ぎてから、勤務と勤務の間のほんの数時間の空き時間などに、激務のストレスをまるで子供のように大はしゃぎして忘れるためのお供に連れ出されるわけですから、めちゃくちゃ楽しいといえば楽しいんですが、自営業で時間の調節はきくとはいえ、一応毎日休日無しで仕事をしているぼくにとっては、スケジュール的には結構大変な日々でもありました。

 その夏の日も、マックスは朝の五時過ぎに突然やってきました。
「ゆき、竿もってこーい! 釣り行くぞー!!」
 わーっ。飛び起きました。
「マーックス! 叫んじゃダメだよ。うち、お客さんが寝てんだからさ」
「いーから、行こ行こ」
 もうっ! 全然お構いなしなんだから。
 
 モーターボートで外海まで一気に突っ走ります。
「ゆき、サーモン釣るぞ、サーモンサーモン」
「えー? サーモンなんて、そんな簡単に釣れるもんなの?」
 なんて言い終わりもしないうちに、投入したばかりのルアーがドカンと引っ張られます。
「うわあああああああっ」
「わー、ゆき、がんばれ」

 竿がしなり、ラインは伸びきり、おもちゃみたいなプラスチックのリールがひしゃげちゃったところで、ボートの下から背後に回り込んだ魚影がジャンプ!
「コーホー(銀ザケ)だ、でかいぞ、がんばれ」
 て言ったって、わーっ、なんていってるうちにまたジャンプされて糸が切れちゃった。こんなの予想してなかったから、マス釣り用の小さな竿とプラスチックの小さいリールに元々着いていた弱っちい糸。こんなので勝負できる相手じゃないじゃん。

 マックスは大はしゃぎで大型のコーホーを何匹も釣り上げています。ぼくはというと船酔いですでにダウン。ゲロ、おぇー(涙)。
「おー! ゆきが撒き餌するからまた釣れた。ぎゃっははははは」
 ひどい……。

 帰り道では村の前の遠浅ビーチでカニ罠を引き上げ、大きなダンジネスクラブを六匹GET。マックスはまたはしゃいでいきなりカニを掴むものだから、指を挟まれちゃった。
「わーっ」
 今度はぼくがゲラゲラ笑い転げる番。でもマックスの指は血まみれだよ、痛そうだな、ゲラゲラ。

 そしてゆきの客にカニをあげるんだ、とぼくにくっついてきたマックス。お客の日本人女性を見て一目惚れ。
 呆れた、もう、あはは。
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