第11話 霧のスタンド使い?(能力はアート)

文字数 1,757文字

『私の名は…………、英語での名はカート・ジョン。カナダ、バンクーバーアイランドのウェストコースト、アホーザットに住む、ヌー・チャ・ヌルス族のアーティストです。
 祖父の名はフレッド・トーマス、祖母の名はアイリーン・トーマス。私は彼らから我がヌー・チャ・ヌルス族の伝統を学びながら育てられました。父の名はフランシス・ジョン、母の名はフレイダ・トーマス。そして二人の姉。私は両親の末っ子として生まれました』
          ________三峰神社で展示されたカート・ジョンの自己紹介文より
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「オー、オッホォー! オッホォー!」
 ドンドンドンドン!
 勇壮な雄叫びと共に戦闘を思わせるドラムの音が木霊します。
 ヌー・チャ・ヌルス族の儀式が始まりました。

 夕方、海上バスの操舵手でインディアン村の長老でもあるロイじいさんから「今夜、村でパーティーがあるからおいで」と招待されてやってきたんです。
「ねぇ、ロイ、これ何の儀式?」
「見てれば分かるよ」

 雄叫びとドラムとが交錯する中、畳まれていた幕が徐々に開かれていき、巨大な海のモンスターや、クジラ、儀式用の巨大な家「ロングハウス」などがところ狭しと描かれたインディアンアートが、圧倒的迫力と共に目の前に姿を現しました。

 やはり長老の一人であるマリーじいさんが、描かれている内容についてマイクで説明を始めましたが、インディアン語なのでさっぱり分かりません。ロイじいさんもどこかに行ってしまったので、隣にいた四十代半ばくらいのおばさんに何を言っているのか聞いてみました。

「あれはね、私たちの歴史。そうね、伝説といった方があなたにはぴんとくるかしら」
 ふーん……。なんか、かっこいい。
「で、実際どんな内容なの?」
「え? えー、ああ……、私も小さいときにはあの言葉喋ってたんだけどねぇ……。忘れちゃった。今はもう私にも、マリーが何を言っているのか分からない」
 ふーん、そうなんだ。ますます神秘的な感じがします。

 儀式はずっとインディアン語で進められているので、何が起こっているのか全然分からないまま続いていきます。フランシス・ジョンという、今までにも何度か聞いたことのある名前がやっと聞き取れたくらいです。
「あ、カートが赤ちゃん抱いて出てきたよ。ロイじいさんも一緒にいる」
「ロイとカートは親子だからね。ロイとフランシス・ジョンとは同じ人だよ」
 え、あ、それは知りませんでした。
 (英語の名前と愛称の関係って、英語圏の人たちだってなんでそうなるのかわからなかったりもする、て言いますもんね)

 じゃ、今あそこには、親子三代が揃って立っているわけだ。
 で、何やってんの? 子供はビーズでインディアンアートをあしらったベストを着て、赤杉の樹皮で編んだヘッドバンド。ずいぶんおめかししています。

 突然拍手がわきおこりました。
「いま、あの子にインディアンネームが授けられたのよ」
 おお! これがそうなの? ロイじいさん、孫にインディアンネームが授けられる儀式にわざわざぼくを呼んでくれたのか。感激です。
 続いてインディアンダンスが始まりました。みんなノリノリになっています。このままパーティーは夜通し続けられることでしょう。
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 そういえば、このあいだカートに彼のインディアンネーム、教えて貰ったんでした。紙に書いて貰ったんですけど、読み方忘れちゃった。と思っているところへ海上バスが給油に来たので、そうだ、ロイじいさんに聞いてみよう。

「ねぇロイじいさん、カートのインディアンネームですけど、これなんて読むんですか?」
「ん? んん、こりゃ読めん」
 え? 「じゃ、じゃあ、意味は?」
「さぁ、わからん。カートに聞きな」
 て、じいさん、あんた親でしょ?
 マジですか、仕方ないなぁ。

 カートに電話してみました。
「読み方は…………だ。意味? 意味はそうだな、霧と共にある者とかなんとかかんとか……、俺の爺さんから貰った名だがな、まぁ、よくわからん」
 そ、そんなもの? いや、もしかして、夕べの伝説に関して隣のおばさんに聞いたときもふと感じたけど、肝心なところはあまり他人に知られるべきで無いのかも。
 ……ってのは考え過ぎかな?
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