第7話 続・子持ち昆布漁(漬け込み)

文字数 1,742文字

 どうも、特派員のゆきです。
 前回のニシンの追い込み漁から3日がたちました。

 丘の上にあるインディアンあさり超人の製材所から 暖炉で燃やすスクラップ材を運んで積み上げているところへ、 インディアン漁業監視官が訪ねてきました。
「明日アサリ掘りに行くけど一緒に来ないか?」
 えー? アサリ掘りかぁ。

 実はまだまだスクラップ材をチェーンソウでぶった切ったり斧で割ったり積み上げたり、それからカナダの確定申告の書類も仕上げなくちゃいけないし、いろいろやることがあって、とんでもなく忙しいんですよねぇ。

 でもインディアンとのコミュニケーションも決して欠かせないビジネスの一部でもあるので、
 一緒に行くことにしました。
 シャチの親子、見られるかも知れないしね。
「じゃ、朝6時半に」
 え? ああ、仕方ないスね。

 翌日、3月14日、雨。
 昨日わざわざ買った新品の農耕用熊手(レーキ)を持ち、確定申告の書類作りで夕べは2時間しか眠っていないところを無理して起きたのに、漁業監視船は30分遅れの朝7時に迎えに来ました。
 船に乗り込むと、女の人や子供達も含めてたっくさん人が乗っていて、座る場所さえありません。

「うわぁ、これって友達一家も誘ってみんなでピクニックってこと?」
 それはそれでレポートにちょうどいいな、と既に頭の中では原稿のプロットがスタートしました。
 しかし、行き着いた先は……、例のニシンの生け簀です。
 あれ?
 そしてふと気がつくと、カッパを着ないでぼーっと立っているのはぼく一人。
 あれ?
「ゆき、あれやってくれ、これやってくれ」
 と容赦なく注文が飛んできます。
 あれ?

 なんのことはない。今日は子持ち昆布の収穫と漬け込みが行われて滅茶苦茶忙しくなるので、ぼくはまんまと騙されて、それにかり出されたのでした。
 ブチッ! 一本切れました。 こんなところまで連れてこられてはどうしようもないので手伝います。

 それに騙したのはあの漁業監視官であって、他の人たちはそんな事情は知らないのです。
 年輩の男衆が生け簀から子持ち昆布を引き上げ、女の人たちがそれをグレード別に分けていきます。

 バスタブのようなコンテナに海水をはって、さらにそこに岩塩をどっさりぶち込んで、スコップでかき回して濃度100%の塩水(飽和状態)を作り、そこに一度子持ち昆布を十分浸してから船尾に運んで、やはりグレード別にコンテナの中に大量の塩と共に漬け込んでいきます。

 みなそれぞれ楽チンなパートにへばりついて離れないので、ぽっかり空いている塩水のバスタブに浸けるところから船尾のコンテナに運ぶところまでをぼく一人がやることになりました。
 
 グレード分けの段階で破れているところとかをどんどん切り捨てるのですが、みんなじゃんじゃん床に捨てるばかりで誰も処理せず、山のようになった屑子持ち昆布を、村に持ち帰るため漁業監視船に運び込むのもぼく一人でやりました。

 ぼく一人カッパを持っていない上での水仕事なので、バスタブの水と雨とでぐしょぐしょです。そして夕方近くになってくると、漬け込みを担当している若いインディアン達は寝っ転がってろくに働かず、ぼくに「あれもやってくれないかな、これもやってくれないかな」なんて言い出しました。

 ぼくを騙した漁業監視官が「どうだ、いい働き手調達してきただろ」なんて言いながら、偉そうにぼくに命令してきたので、ブチブチブチッ!
 もう怒ったっ!

「おいおい、ゆき、悪かったよ。子持ち昆布いくらでも何十キロでも持っていっていいから怒ることないだろ。日本じゃ、お前、手が出ないほど値段が高いっていうじゃないか」なんて、まだ偉そうに言う。

 うるさい、バカ! 俺は食い物になんてさして興味はねぇんだよ。だいいちこんなもの何十キロも持って帰ったって一人でどうしろっちゅうんじゃ。
 帰る、バカ!
 船出せ、バカ!
 もう二度と手伝ったりしねぇからな、このバカッ!
 久しぶりにブチ切れました。
 
 でもそれからです。
 生け簀関係者と顔を合わすたび、大量の子持ち昆布や数の子がホステルに届けられるようになりました。
 いらないっちゅうのに、結局何十キロも集まっちゃった。

 もおお! どーぉぉしろっちゅうんじゃ。
 海洋投棄か?

 つづく。
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