第17話 冬に備えて……ウサギのプライド

文字数 1,776文字

 この辺りの海域クレイオクオットサウンドは非常に豊富な海洋資源に恵まれています。その昔には重要な漁業の拠点でもあったここフローレスアイランドのアホーザットには、日本の漁船も数多く訪れていたそうです。

 そしてカナダの漁業が以前ほど盛んでなくなってしまった今でも、お隣のジェネラルストアの造船ドックには、いろいろなタイプの漁船がけっこう頻繁に出入りしています。
 大漁のお裾分けを貰うこともしばしばなんですが、今日はなんと、年輩の白人漁師さんからビンナガマグロを丸ごと一匹貰っちゃいました。マグロトローリング漁の仕掛けとアイデアは全部日本製です。
 
 しかし漁船の冷凍室から出してきて「ほらよ」って投げられても、これいったいどうしたらいいの?
 別の若い白人漁師が、アイスおごってくれたらマグロさばいてやるぜ、なんて言うものだから「じゃ、そうするか」とアイスを買ってあげました。でも当のマグロがまだカチカチに凍っていたので、解凍を待っているあいだに漁師はどこかに遊びに行っちゃった。

 仕方ない、自分でやるか。エヘへ、ホントは自分でやってみたかったんですよねぇ。だいたいのやり方はさっき聞いたし。よし、マグロ、まる(ごと)、いきます!

 皮をはがして身を縦に四つに分け、中心部の赤身を取り除いて、白身部分だけを瓶詰めにしていきます(て、今思えばこれってめっちゃ白人的な、生き物を冒涜した使い方~)。準備が出来たら、瓶ごと四時間煮込んでできあがり。
 いわゆるシーチキンというヤツです。
 出来は上々、非常に美味しいシーチキンが出来ました。

 背骨が凄くカッコイイのでとっておこうと思って、玄関の外、ポーチに吊るして干しておきました。
 しかし、ビンチョウ(ビンナガマグロ)って、加熱処理中に発せられる匂いはかなり強烈、くっさいです。辺り一面、数日間ビンチョウの匂いが染みついて取れないほどでした。

 夜はお隣のジェネラルストアが経営しているレストランのおばさんに、野生のベリーの煮汁でゼリーを作るところを見学させて貰いました。冬用の食糧の備蓄技術をどんどんと学んでいかねばなりません。

 翌朝、ふと気がつくと、玄関の前に煮汁を絞った後のベリーのカスがどっかりと捨ててありました。
「ははぁ、レストランのおばさんだな。煮汁を絞ったあとはこうなるんだと、ぼくに見せたいんだ」
 玄関先に生ごみ捨てられるのって迷惑なんですけど、それにしても、すごくいい匂いだから、今回はまぁいいか。
 ベリーのカスをがっしりと掴んで、鉢植えの花に栄養として、ほぐしていっぱいあげました。そして、この前、雨漏りがあった屋根の修理をしているところへストアのおやじがやってきました。

「おまえ、熊のウンコ掴んで何やってたんだ?」 
 へ? なんのこと?
「あれ、夕べ二時頃、熊がしてったウンコだぞ」 
 ま~ったまたぁ、これ思いっきりベリーの絞りカスじゃないですか。
「絞りカスは俺が海に捨てたんだってば」
 
 えー? またかつごうとしてんでしょ。
 と、そこへレストランのおばさん登場。 
「あんた熊のウンコ掴んで匂いくんくんかいじゃってさ、頭どうかしちゃったんじゃないの? ワハハ」

 う、た、確かに……、昨日おばさんがベリーを煮てるところを見てなかったら、ぼくだってこれは間違いなく熊のウンコだと思ってる。そしてストアの前の桟橋の下には、おやじが捨てたというベリーの残骸がまだどっかりと。そういえば、昨日干しておいたマグロの背骨も見あたらない……、あはは……、ウンコですな、こりゃ。

 午後は丘の上の製材所でスクラップを貰い、チェーンソウで短く切って、冬の暖房のための薪を確保です。そして斧でドカンドカン薪割りしている横で、ミンクが丸太に空いた穴を覗いていました。そんなことをしているあいだに、家の前の入り江を熊が泳いで渡って行くのが目撃されたらしいです。

 それはそうとして、作業中も時々家に戻ってきてたんですが、今朝あんなに大量にあった熊のウンコが、気がつくたび、見る見る少なくなっていくんですよね。なんでだろう?
 暗くなってからふと外を見ると、あああ! ウ、ウサギが! ウサギが熊のウンコ食っちょるぅ!
 何匹も何匹も群がって、ケンカしながらウンコむさぼり食っちょるう!
 あああああ! ええんか? お前らそれでええのんか!?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み