第44話 ビバ! チョップスティックス
文字数 1,643文字
この冬、二ヶ月間留守にしていた間に、仕込んでおいた酒類がどうなったものか、検証してみることにしました。
まずはサルノコシカケ酒。サルノコシカケをウォッカで漬けておいたら、カキ氷のレモンシロップみたいに真ッ黄ッ黄になっちゃいましたよ? どんどん濃くなって今はまるでウィスキーみたいな色ですが、う~ん、あれって本来がそういうものなの? 飲んでいいものかどうか、ちょっと心配。
そして秋に野生のベリーで仕込んだうちの のび太君(ワインの名前)は、まるっきり働いていませんでした。つまりちっともアルコール化していませんでした。のび太君、寝ちゃったの? ぐう、って。名前っていうのは一種の呪 だっていいますからね。名前って大事なんです。のび太じゃよくなかったかな。細木数子に頼んで改名するか……、と考えているところで、ふと、この前、天然酵母パンの作り方のレシピを見たのを思い出しました。
天然酵母の元になる媒体は、リンゴでもブドウでもなんでもいいのですが、梅ジュースを使う場合は、そのままだと糖度が高すぎて酵母菌が活発に働くことができず、たとえなんとかアルコール発酵し始めたとしても、活性が弱いために自らが作り出したアルコールに除菌されてしまう……と。
む、これだな。砂糖二十二カップも入れたからな。甘すぎたな。のび太君に水をジャバジャバと注ぎ足して、二倍強に薄めてみました。で、何日か放っておいたら、酵母菌が活動を始めて、シュワシュワーって炭酸ベリージュースになりました。これ、美味っしー。「うまいんだな、これが」と和久井映見ばりにつぶやきながら、これってけっこう嬉しいかも。
さて、気になっていたことで、家の中の二つ(どっちもお酒)がとりあえず済んだので、外のこともひとつ片付けとこうと思います。
不在の間、ぼくの愛舟、十二フィートのリトルハミングバード号は、家の前の浮き桟橋に引っぱり上げてひっくり返しておいたんですが、船底に割れ目が入っているところがあって、あれは是が非とも直しておかなくちゃな、と思っていました。そろそろボートを海に浮かべておきたいので、今日はFRP(繊維強化プラスチック)で船底にパッチを当てる補修作業を行うことにします。
ガラス繊維で編んだ布(ファイバーグラス)、レジン(プラスチック樹脂)、カッテージチーズの空き容器、ハサミ、割り箸、サンドペーパー……、ま、要る物はこんなところかな。
さぁこれから始めようというところで、村のインディアンたちの船が続々と桟橋にやってきました。あ、今日は週に二度しかない郵便がくる日だもんね。
みんなさっさとストア(兼郵便局)の方に桟橋を上がって行くのに、サミーの兄貴のジンボーだけは、船から降りずにじっとぼくを見つめていました。
「ジンボー、どうした、早く来いよ」
「だってユキがスティック(棒)持って立ってやがるんだ。危なくって行けねぇ」
「ああ、スティック持ってやがるな」
「しかも二本も持ってやがる」
そ、そりゃあチョップスティックス(お箸)は二本で一組だからねぇ。でも要するにジンボーは、FRP作業とお箸がどんな関係があるのか興味津津だから、しばらく見ていたい、っていうことだったわけですね。
え? それでこれでどうするのかって? まずはカッテージチーズの空容器にレジンと凝固剤を入れて割り箸でかき混ぜるでしょ? ふん、そんなの面白くない? じゃ、そこにファイバーグラスを浸して、それをお箸で摘み上げ、ひょいひょいとパッチを当てたいところにかぶせていくでしょ? それをまたお箸で上からパシパシ抑えて空気を抜いて……、て、ほら、手も汚さずにもう三層のパッチが出来ちゃったよ。
ジンボーは感心したような呆れたような複雑な顔。
「箸でファイバーグラス貼り付けるのなんて始めて見たよ。日本人てのは何にでも箸を使うもんなのか?」
まぁね、箸、使えると便利でしょ? でも普通の日本人は箸でFRP作業なんて、決してしないだろうとは思うけどねぇ。
まずはサルノコシカケ酒。サルノコシカケをウォッカで漬けておいたら、カキ氷のレモンシロップみたいに真ッ黄ッ黄になっちゃいましたよ? どんどん濃くなって今はまるでウィスキーみたいな色ですが、う~ん、あれって本来がそういうものなの? 飲んでいいものかどうか、ちょっと心配。
そして秋に野生のベリーで仕込んだうちの のび太君(ワインの名前)は、まるっきり働いていませんでした。つまりちっともアルコール化していませんでした。のび太君、寝ちゃったの? ぐう、って。名前っていうのは一種の
天然酵母の元になる媒体は、リンゴでもブドウでもなんでもいいのですが、梅ジュースを使う場合は、そのままだと糖度が高すぎて酵母菌が活発に働くことができず、たとえなんとかアルコール発酵し始めたとしても、活性が弱いために自らが作り出したアルコールに除菌されてしまう……と。
む、これだな。砂糖二十二カップも入れたからな。甘すぎたな。のび太君に水をジャバジャバと注ぎ足して、二倍強に薄めてみました。で、何日か放っておいたら、酵母菌が活動を始めて、シュワシュワーって炭酸ベリージュースになりました。これ、美味っしー。「うまいんだな、これが」と和久井映見ばりにつぶやきながら、これってけっこう嬉しいかも。
さて、気になっていたことで、家の中の二つ(どっちもお酒)がとりあえず済んだので、外のこともひとつ片付けとこうと思います。
不在の間、ぼくの愛舟、十二フィートのリトルハミングバード号は、家の前の浮き桟橋に引っぱり上げてひっくり返しておいたんですが、船底に割れ目が入っているところがあって、あれは是が非とも直しておかなくちゃな、と思っていました。そろそろボートを海に浮かべておきたいので、今日はFRP(繊維強化プラスチック)で船底にパッチを当てる補修作業を行うことにします。
ガラス繊維で編んだ布(ファイバーグラス)、レジン(プラスチック樹脂)、カッテージチーズの空き容器、ハサミ、割り箸、サンドペーパー……、ま、要る物はこんなところかな。
さぁこれから始めようというところで、村のインディアンたちの船が続々と桟橋にやってきました。あ、今日は週に二度しかない郵便がくる日だもんね。
みんなさっさとストア(兼郵便局)の方に桟橋を上がって行くのに、サミーの兄貴のジンボーだけは、船から降りずにじっとぼくを見つめていました。
「ジンボー、どうした、早く来いよ」
「だってユキがスティック(棒)持って立ってやがるんだ。危なくって行けねぇ」
「ああ、スティック持ってやがるな」
「しかも二本も持ってやがる」
そ、そりゃあチョップスティックス(お箸)は二本で一組だからねぇ。でも要するにジンボーは、FRP作業とお箸がどんな関係があるのか興味津津だから、しばらく見ていたい、っていうことだったわけですね。
え? それでこれでどうするのかって? まずはカッテージチーズの空容器にレジンと凝固剤を入れて割り箸でかき混ぜるでしょ? ふん、そんなの面白くない? じゃ、そこにファイバーグラスを浸して、それをお箸で摘み上げ、ひょいひょいとパッチを当てたいところにかぶせていくでしょ? それをまたお箸で上からパシパシ抑えて空気を抜いて……、て、ほら、手も汚さずにもう三層のパッチが出来ちゃったよ。
ジンボーは感心したような呆れたような複雑な顔。
「箸でファイバーグラス貼り付けるのなんて始めて見たよ。日本人てのは何にでも箸を使うもんなのか?」
まぁね、箸、使えると便利でしょ? でも普通の日本人は箸でFRP作業なんて、決してしないだろうとは思うけどねぇ。