第10話 ケンタッキーじゃないですよぉ!?

文字数 1,507文字

 二〇〇三年春。
 お隣のアホーザット・ジェネラル・ストアが飼っているアヒルの数が減りました。このあいだまでは全部で七羽いたはずなのに、ふと気がつくと一羽足りません。

 もう春だし、どこかで卵でも抱いているのかなぁ、とあちこち探してみましたが、実は、数日前に白頭鷲にさらわれちゃったらしいです。ウサギも一羽、さらわれて行っちゃいました。
 あ~あ、さよなら。

「アヒルはアヒル天国に、ウサギはウサギ天国に行っちゃったの」
 とは、ジェネラルストアの孫娘シャルビィ(三歳)が、数が足らないことを母親のアイリスに尋ねて返ってきた答えを、そのままぼくに諭すように言うセリフ。

 白頭鷲は人間の残飯あさりなども平気でする鳥ですし、釣りをしていれば何羽もあちこちから監視していて、釣った魚を横に投げておこうものなら、江ノ島のトンビばりに滑空してきてかっさらって行っちゃいますから、確かに人間に近寄るのに、そう怖じ気づく鳥ではありません。

 しかしまぁ、ストアとぼくの住む家との間のほんの三十メートルばかりの敷地で、残飯やストアの売れ残り野菜の処理係をしているウサギやアヒルを標的にしたのは、一応ぼくがこのアホーザットに住み始めてからの四年間で初めて見ました。

 えさが不足しているのかなぁ、とも思いましたが、この冬は穏やかで天気のいい暖かな日が多かったですから、たぶん、若い白頭鷲がおもしろ半分でやったというのが妥当な推理かな、と思います。
 人間も動物も鳥も、とにかく若い連中は好奇心旺盛ですからね。

 ああ、このエッセイを書いているちょうど今、グワーグワーと外から蛙の大合唱が聞こえています。
 ふと、昔、二人のアメリカ人と一緒に、中国を実走距離だけで三〇〇〇キロくらい自転車で走って旅したときのことを思い出しました。

 ぼくたちはあちこちの村で休憩しては一日五回くらいは食堂に入りました。漢字が読めるのはぼくだけなので、注文係はいつもぼくです。しかし漢字が読めると言っても、実際には麻婆豆腐(マーボードウフ)と青椒牛肉絲(チンジャオロースー)しか中国読みはできませんから、毎度そればかりを注文していました。するとあるときアメリカ人が「たまには他の物食べたい」と言うのです。えー? そう? メニューにあった「田鴨」って何かな? 田んぼの鴨はアヒルかな?

「んじゃさ、アヒル食う? アヒル」
「おー、いいねえ!」
 で、「田鴨」、注文しました。料理を待つ間の会話も弾みます。
 で、出てきました、お皿いーっぱい、大盛りに盛られた、カ・エ・ル!

 ああ~あ、田んぼでグワーグワー鴨みたいに鳴いてるのはカエルかぁ、なる、ほど。
 うんうん……、と一人で納得してたら、アメリカ人、怒っちゃいましたな。
 あれからちょうど十年経ちます。懐かしいなぁ……。

 四月三十日。今日はジャングルの湿地で蛙の卵を発見しました。日本でよく見るトコロテンの紐状ではなく、直径十センチくらいのゼリーボールの中に、直径八ミリくらいのゼリー玉が五十から六十個入っています。その中身のゼリー玉の中に、卵、あるいはオタマジャクシがひとつずつ入っていました。オタマジャクシ入りの方は、その小さい方のゼリー玉がうっすらと緑がかってます。卵のやつは透明なので、あれはオタマジャクシの排泄物の影響か?

 ふーん、珍しいもの見た、と思って帰ってきたら、シャルビィのめんどりがインディアンの漁船に乗ってきた犬に噛まれた傷が元で、息を引き取る場面に遭遇しました。あ~あ。
 ストアのおじさんが死体を海に放り投げながら、
「おい、シャルビィに言うなよ」
 って、わかってますよ。
「ニワトリはチキン天国に行っちゃったの」
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