第29話 タコと友情
文字数 1,536文字
茶ぱつインディアンのトム。
おいおい、インディアンも茶ぱつなのかよ、と初めて会ったときはびっくりしました。で、また彼の顔が日本人そっくりなんです。たしか二十五歳くらいで、日本人顔の茶ぱつ、服装はまるで特攻服を着た日本のヤンキーそのままです。
も、お前さ、日本に行っても誰もお前のことインディアンなんて思わないっての、て感じで、複雑に思いました。だってさ、ぼく自身が日本に帰ってくると実に五割の確立で外人だと思われるっていうのに、あいつ、どう見たって日本人に見えるんですもん。コンビニ前にうんこ座りしてたらばっちりはまるよ。
仲良くなったきっかけは、トムがタコ、持ってきてくれたんです。
「タコかよ!」
またまたびっくりしました。だって日本のそこいらの土方の現場にいそうな、あるいは暴走族の中に混じっていそうな日本のヤンキーにしか見えないインディアンが、こんなカナダの離れ島で、タコ、持ってきてくれたんですからねぇ。
タコって八本足のタコですからね、念のため。そうです、タコ焼きにする、タコです。
タコは真ん中から半分に切った2リットルのペットボトルの中に入っていました。ああ、タコは蛸壺、好きですもんね。でもなんだよ、トム、どこでそんなの見つけたんだよ。
「よぉ、ユキ、お前ら日本人て、タコ、食べるんだろ? 食べるところ見せてくれよ」
ええ? そりゃ食べるけど、食うとこ見せろって、どうしろっての?
おりゃおりゃ、とトムは半切りのペットボトルを逆さに振って、中に入っていたタコを、お隣りのジェネラルストアの前のコンクリートの上にベチャッと追い出しました。
うおー、こりゃ、タコだぁー。
「ほら、逃げるぞ、捕まえろよ」
とトム。なんだよ、出すんじゃないよ。ぼくだって実際東京で生まれ育った都会っ子なんだから、生きてるタコなんて触ったことねぇんだよ、ばかやろう、恐いやんけ! てのが本音だったんですが、うぬ、くそ、ここでなめられてたまるか、てのプラス、「ぎゃー、こんなとこでタコなんか出しやがって、ぼくがストアのおやじにどやされるやんけ、ばかばか」
という二つの理由があいまって、仕方が無いから平気な顔をしながら、ずるずると動き出したタコの頭を掴んだのでした。
ぎゃー、柔らかい、うへぇーぬるぬる、初めてタコ掴んだ、いやーん、墨吐いた、いやーんいやーん、だじげでー、なんて心の叫びはおくびにも出しません。
「食えよ」
「食えよって、どういう風によ」
「いやだからガブッと」
「いけるかっちゅうの! それよりお前、これちょっと持ってみろよ」
「やだよ、こえぇよ」
にゃにぃ? なんだよ、お前らインディアンも、タコ、恐かったのかよ。
そういえば、ストアに買い物に来ていた村のインディアンたちも続々とタコを見に集まって来ました。みんな「タコ、初めて見たー」なんて目を丸くしています。
ふーん、意外とそんなもんなのね。
ストアのおやじも外に出てきたので「やば! 店の前にタコのぬめぬめ付けちゃって怒られる」墨まである、やばいやばい、とオロオロしてたら、どういうつもりか、おやじは「おい、そのタコ、うちの冷凍倉庫の中に入れておいていいぞ」と言います。
ん? なんでわざわざストアの巨大な冷凍倉庫の中にこんなタコ、入れとかなきゃいかんの? なんでなんで? と思ったんですが、要するに、おやじにとってもタコなんて物珍しかったってことなのかなぁ。
トムはその後しょっちゅう釣りたてのサーモンやレッドスナッパー、リングコッドなどの美味しい魚を届けてくれるようになったので、すっかり仲良しになりました。彼の家にも呼ばれたりしてね。
こうして異国の地でだんだんと友達が増えていくのは、本当にうれしいことでした。
おいおい、インディアンも茶ぱつなのかよ、と初めて会ったときはびっくりしました。で、また彼の顔が日本人そっくりなんです。たしか二十五歳くらいで、日本人顔の茶ぱつ、服装はまるで特攻服を着た日本のヤンキーそのままです。
も、お前さ、日本に行っても誰もお前のことインディアンなんて思わないっての、て感じで、複雑に思いました。だってさ、ぼく自身が日本に帰ってくると実に五割の確立で外人だと思われるっていうのに、あいつ、どう見たって日本人に見えるんですもん。コンビニ前にうんこ座りしてたらばっちりはまるよ。
仲良くなったきっかけは、トムがタコ、持ってきてくれたんです。
「タコかよ!」
またまたびっくりしました。だって日本のそこいらの土方の現場にいそうな、あるいは暴走族の中に混じっていそうな日本のヤンキーにしか見えないインディアンが、こんなカナダの離れ島で、タコ、持ってきてくれたんですからねぇ。
タコって八本足のタコですからね、念のため。そうです、タコ焼きにする、タコです。
タコは真ん中から半分に切った2リットルのペットボトルの中に入っていました。ああ、タコは蛸壺、好きですもんね。でもなんだよ、トム、どこでそんなの見つけたんだよ。
「よぉ、ユキ、お前ら日本人て、タコ、食べるんだろ? 食べるところ見せてくれよ」
ええ? そりゃ食べるけど、食うとこ見せろって、どうしろっての?
おりゃおりゃ、とトムは半切りのペットボトルを逆さに振って、中に入っていたタコを、お隣りのジェネラルストアの前のコンクリートの上にベチャッと追い出しました。
うおー、こりゃ、タコだぁー。
「ほら、逃げるぞ、捕まえろよ」
とトム。なんだよ、出すんじゃないよ。ぼくだって実際東京で生まれ育った都会っ子なんだから、生きてるタコなんて触ったことねぇんだよ、ばかやろう、恐いやんけ! てのが本音だったんですが、うぬ、くそ、ここでなめられてたまるか、てのプラス、「ぎゃー、こんなとこでタコなんか出しやがって、ぼくがストアのおやじにどやされるやんけ、ばかばか」
という二つの理由があいまって、仕方が無いから平気な顔をしながら、ずるずると動き出したタコの頭を掴んだのでした。
ぎゃー、柔らかい、うへぇーぬるぬる、初めてタコ掴んだ、いやーん、墨吐いた、いやーんいやーん、だじげでー、なんて心の叫びはおくびにも出しません。
「食えよ」
「食えよって、どういう風によ」
「いやだからガブッと」
「いけるかっちゅうの! それよりお前、これちょっと持ってみろよ」
「やだよ、こえぇよ」
にゃにぃ? なんだよ、お前らインディアンも、タコ、恐かったのかよ。
そういえば、ストアに買い物に来ていた村のインディアンたちも続々とタコを見に集まって来ました。みんな「タコ、初めて見たー」なんて目を丸くしています。
ふーん、意外とそんなもんなのね。
ストアのおやじも外に出てきたので「やば! 店の前にタコのぬめぬめ付けちゃって怒られる」墨まである、やばいやばい、とオロオロしてたら、どういうつもりか、おやじは「おい、そのタコ、うちの冷凍倉庫の中に入れておいていいぞ」と言います。
ん? なんでわざわざストアの巨大な冷凍倉庫の中にこんなタコ、入れとかなきゃいかんの? なんでなんで? と思ったんですが、要するに、おやじにとってもタコなんて物珍しかったってことなのかなぁ。
トムはその後しょっちゅう釣りたてのサーモンやレッドスナッパー、リングコッドなどの美味しい魚を届けてくれるようになったので、すっかり仲良しになりました。彼の家にも呼ばれたりしてね。
こうして異国の地でだんだんと友達が増えていくのは、本当にうれしいことでした。