第3夜 13節

文字数 849文字

ユキは自宅に到着すると、階段を上がって二階の自室に向かった。
電気を点けて、クーラーを入れる。……最初は少しきつめにかけておこう。
そして制服のまま、ベッドにダイブする。朝一生懸命整えたベッドが途端にしわしわになって……ちょっと罪悪感。だが、ふかふかの感触と、自分の好きな優しい匂いに包まれて、なんだか幸せな気持ちになる。
ごろり、と寝返りを打って天井を仰ぐ。

……今日も一日、頑張った。
レナちゃんとセツナちゃんとも仲良く出来たし、宮下さんの嫌がらせにも耐えた。
今日も、私なりに頑張った。

……………。

……でも、やっぱり…レナちゃんやセツナちゃんにまで嫌がらせが向けられているのは、心苦しい。それはきっと、私の友達と認識されているから……つまり、私のせいなのだ。

私がいじめられ続けているのは、私が陰気で、そのうじうじした態度が癪に障るから…と云うのもあるだろうが、恐らく大きな理由は「私が反抗しなくてからかいやすいから」だろう。

『───少なくとも自分の身くらいは守りたいよね。…私が自衛出来るようになればレナの負担も減るし───』

二人が転入してきた日の放課後、セツナちゃんが言っていた言葉が脳裏を過ぎる。
……強くなりたい。それは、私の本心。
私が強くなって、それでレナちゃんやセツナちゃんの負担が減るなら……嫌がらせを受ける事が減るなら、そのための努力は惜しんではいけないと思う。

強くなるには、どうすればいいんだろう……。

……「嫌だ」ともっとはっきり、強い口調で言うところから、だろうか。
宮下さん達に立ち向かうのは、やっぱり怖い。けれど、その一言で何かが変わるなら……変わる可能性があるなら、怖いなんて言っている場合では無いだろう。

私が強くなれば、レナちゃんやセツナちゃんももっと幸せになれる。

強くなろう。
もう少し、頑張ってみよう。

明日、もし宮下さん達に何かされたら───その時は、勇気を出して全力で抵抗してみよう。

ユキは一人、そう決意した。
その決意が────彼女の運命を変える事になるとは、思わなかった──。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

夜国 玲菜(やくに れな)


実験体A-11316-01


ブロンドのボブヘアに青いリボンと青い瞳の小柄な少女。

【発狂症】持ちにして、【ヤミカガミ】の適合者。妖の血を引いており、身体能力が高い。誰かを助けたいと強く思う反面、敵には容赦しないなど残酷。

白橋 雪奈(しらはし せつな)


実験体A-11316-02

 

紫がかった黒髪と黄金の瞳を持つ背の高い少女。類稀な「霊力」を秘めている。

神事【神憑り(かむがかり)の儀式】で繁栄を築いてきた「御光(みこう)家」の生まれ。 だが、儀式に出られるのは男児のみだったため一族から出来損ない呼ばわりされ虐待されて育つ。

白夜 雪音(びゃくや ゆきね)


実験体F-40556-E3


先端脳科学研究所で育ち、【クレナイ】に移ってきた実験体。

髪はもともとは黒かったが実験の影響で色が落ちてしまった。

実験を通して人間の限界まで身体能力を磨き上げられている。 おどおどしていて丁寧、優しい性格。

星野 有希(ほしの ゆき)


実験体L-90996-A4

 

学校でいじめを受けていた黒髪で眼鏡をかけた内気な少女。

レナの強さに勇気を貰っていじめっ子に反発したことでいじめが悪化し、屋上から身投げをする。その後【クレナイ】に拾われて二代目【ヤミカガミ】として完成する。だが、彼女は精神を破壊されており───。

サツキ


レナに助言を与える、銀の髪に紅の瞳を持つロリィタ服の少女。

対象の精神を汚染する「人を壊す力」を持ち、【クレナイ】の研究員と実験体に精神汚染を行っている【クレナイ】幹部にしてお姫様。

レナを特別視しているが、その理由とは…。

研究長:郷原雅人(さとはら まさと)


【Dolce】の職員にして能力開発研究所【クレナイ】の所長兼研究長。

人当たりがよく物腰柔らかで紳士的だが、倫理観がどうかしており、非人道的な人体実験だと理解した上で実験を行なっている狂人。
実は彼にも事情があって────。

ヒナ(緋那)


【感情の権化】───妖の1人にして、【死】そのものを司る、生きる厄災。

全てを奪い、失いながら永劫を生きる地獄に耐えられなくなり、禁呪を用いて命を絶った。だが、彼女の死が全ての物語の運命を歪める事となった───。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み