第2夜 3節

文字数 768文字

彼等の子供は、妻の胎内ですくすくと成長し、あっという間に十の月を迎えた。きたる七月の八日………それが、出産の日だった。
出産は、長丁場に渡る事なくすんなりと終了した。普通分娩で生まれた子供を医者が抱き、荒い呼吸を繰り返す妻───いや、「母親」と、彼女の手をしっかりと握る「父親」に笑いかける。


「───おめでとうございます、元気な女の子ですよ」


……そう、医者は言う。
その瞬間、夫婦の表情が凍りついた。
今、目の前の医者は、何と……?


「………え、女…の、子……?」

「はい、とても元気な女の子です。本当におめでとうございます」


それは、聞き間違いなどでは無かった。
夫婦のもとに誕生した命は、女性の形をしていたのだ。
……御光家で代々受け継がれる【神憑りの儀式】へ参加できる資格を有するのは、強い霊力を持つ男児のみと決まっている。つまり、女児は仮に健康体で生まれたとて……この家では何の意味も為さないのだ。
それはつまり、どういう事か。
……この夫婦は、本家から得られる筈だった地位、富、名誉……それら全てを手にする資格を、失ったという事だ。…それだけで済めば百歩譲って良い。一族をあげて喜んだ事がぬか喜びだったとなれば、この分家の夫婦は一族を騙したとして後ろ指を刺され、地位を更に落とし、一族から村八分にされてしまう可能性だってあるのだから。
…………それを瞬時に悟った夫、そして妻は顔色を真っ青にし…これから起こる未来に怯えた。そんな事も知らず、おぎゃあ、おぎゃあと元気に泣く赤ん坊……その声が、脳裏に焼き付いて……それは二度と、離れる事は無いだろう───。








───察しのいい人は気付いているかもしれない。
そう……この時生まれた忌み子こそが、私……セツナだった。

運命は、歪み始める。
思えば、私は、生まれた瞬間から……誰にも望まれず、愛されていなかったのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

夜国 玲菜(やくに れな)


実験体A-11316-01


ブロンドのボブヘアに青いリボンと青い瞳の小柄な少女。

【発狂症】持ちにして、【ヤミカガミ】の適合者。妖の血を引いており、身体能力が高い。誰かを助けたいと強く思う反面、敵には容赦しないなど残酷。

白橋 雪奈(しらはし せつな)


実験体A-11316-02

 

紫がかった黒髪と黄金の瞳を持つ背の高い少女。類稀な「霊力」を秘めている。

神事【神憑り(かむがかり)の儀式】で繁栄を築いてきた「御光(みこう)家」の生まれ。 だが、儀式に出られるのは男児のみだったため一族から出来損ない呼ばわりされ虐待されて育つ。

白夜 雪音(びゃくや ゆきね)


実験体F-40556-E3


先端脳科学研究所で育ち、【クレナイ】に移ってきた実験体。

髪はもともとは黒かったが実験の影響で色が落ちてしまった。

実験を通して人間の限界まで身体能力を磨き上げられている。 おどおどしていて丁寧、優しい性格。

星野 有希(ほしの ゆき)


実験体L-90996-A4

 

学校でいじめを受けていた黒髪で眼鏡をかけた内気な少女。

レナの強さに勇気を貰っていじめっ子に反発したことでいじめが悪化し、屋上から身投げをする。その後【クレナイ】に拾われて二代目【ヤミカガミ】として完成する。だが、彼女は精神を破壊されており───。

サツキ


レナに助言を与える、銀の髪に紅の瞳を持つロリィタ服の少女。

対象の精神を汚染する「人を壊す力」を持ち、【クレナイ】の研究員と実験体に精神汚染を行っている【クレナイ】幹部にしてお姫様。

レナを特別視しているが、その理由とは…。

研究長:郷原雅人(さとはら まさと)


【Dolce】の職員にして能力開発研究所【クレナイ】の所長兼研究長。

人当たりがよく物腰柔らかで紳士的だが、倫理観がどうかしており、非人道的な人体実験だと理解した上で実験を行なっている狂人。
実は彼にも事情があって────。

ヒナ(緋那)


【感情の権化】───妖の1人にして、【死】そのものを司る、生きる厄災。

全てを奪い、失いながら永劫を生きる地獄に耐えられなくなり、禁呪を用いて命を絶った。だが、彼女の死が全ての物語の運命を歪める事となった───。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み