第2夜 3節
文字数 768文字
出産は、長丁場に渡る事なくすんなりと終了した。普通分娩で生まれた子供を医者が抱き、荒い呼吸を繰り返す妻───いや、「母親」と、彼女の手をしっかりと握る「父親」に笑いかける。
「───おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
……そう、医者は言う。
その瞬間、夫婦の表情が凍りついた。
今、目の前の医者は、何と……?
「………え、女…の、子……?」
「はい、とても元気な女の子です。本当におめでとうございます」
それは、聞き間違いなどでは無かった。
夫婦のもとに誕生した命は、女性の形をしていたのだ。
……御光家で代々受け継がれる【神憑りの儀式】へ参加できる資格を有するのは、強い霊力を持つ男児のみと決まっている。つまり、女児は仮に健康体で生まれたとて……この家では何の意味も為さないのだ。
それはつまり、どういう事か。
……この夫婦は、本家から得られる筈だった地位、富、名誉……それら全てを手にする資格を、失ったという事だ。…それだけで済めば百歩譲って良い。一族をあげて喜んだ事がぬか喜びだったとなれば、この分家の夫婦は一族を騙したとして後ろ指を刺され、地位を更に落とし、一族から村八分にされてしまう可能性だってあるのだから。
…………それを瞬時に悟った夫、そして妻は顔色を真っ青にし…これから起こる未来に怯えた。そんな事も知らず、おぎゃあ、おぎゃあと元気に泣く赤ん坊……その声が、脳裏に焼き付いて……それは二度と、離れる事は無いだろう───。
───察しのいい人は気付いているかもしれない。
そう……この時生まれた忌み子こそが、私……セツナだった。
運命は、歪み始める。
思えば、私は、生まれた瞬間から……誰にも望まれず、愛されていなかったのだ。