第3夜 11節
文字数 1,508文字
レナちゃん、セツナちゃんと出会ってからの日々は楽しくて、あっという間に月日が流れた。いじめが無くなったのかと言われるとそうでは無い……主に二人が居ない時を狙って、執拗にいじめや嫌がらせは続いた。宮下さん達は、レナちゃんやセツナちゃんにも無視や陰口を叩いているようなので、巻き込んでしまったと申し訳なかった。けれど、二人はそれらの嫌がらせには堪えていないようで「言わせておけばいいよ、気にする必要は無い」とあっけらかんと言っていた。「あんなのに嫌われても、ユキは私達の事好きでいてくれてるからね」と笑ってくれたセツナちゃん。……その考え方を、私も見習いたいと思う。
宮下さんは、私以外だと特にレナちゃんに対して当たりが強い。朝礼前にレナちゃんの机の上に落書きしているところを偶然見てまさか、とは思ったが、宮下さん達はレナちゃんの上履きを隠したり、列になって階段を登っている時にわざと突き飛ばして階段から落としたり……そんな風に彼女に対してもいじめをするようになっていた。けれど、レナちゃんは顔色ひとつ変えず、恨み事をひとつも言わず、ただ無言でそれらに耐えていた。……「耐えていた」と云う表現は正しくないかもしれない。どちらかと云うと、本当に何も気にせず受け入れているように見えた。彼女が酷い目に遭うのも私のせいなのではと不安になり、心配して声を掛けたが、「全然大丈夫!好きな子には意地悪したくなるって言うでしょ?それなんじゃないかなぁ、私ってひょっとして人気者?」と笑顔で返されてしまった。……それが私に心配をかけない為の嘘である事は、何となく分かっている。自分だって辛い筈なのに、そうやって周りを思いやるレナちゃんは……やっぱり、本当に強いのだと改めて気付かされた。
兎も角、そのような感じで辛い時もあるが……それでも、レナちゃんやセツナちゃんと過ごしている時間はとても幸せで。それは、今まで居ないも同然の扱いをされてきた自分を見てくれる人が居る、友達だと信じてくれる人が居ると云う幸せ。
私の両親は共働きで忙しく、基本家に帰って来ない。だから、学校でも家でもずっと孤独だった。レナちゃんとセツナちゃんは、そんな私にとっての居場所になってくれた。それが、堪らなく嬉しくて。
時間は流れ、あっという間に一学期が終わって夏休みに入った。
二年生の夏休みは、今までに経験した事が無いくらいに充実していた。……それはやはり、レナちゃんとセツナちゃんが居たから。
生まれてから海も山も行った事が無いと言っていた二人を連れて、海にも山にも行った。海ではカナヅチの私が溺れかけて、二人が助けようとしてクラゲに足を刺されて溺れかけ、三人まとめて大人のお世話になった。山ではロープウェイに乗ったらセツナちゃんがあまりの高さにびっくりして気絶して大パニックになったっけ。街巡りもした。私はよく行くネットカフェを紹介したが、二人がインターネットを知らなかったり漫画やアニメを初めて見ると言っていた事に驚きが隠せなかった。二人は、両親が帰ってこない私を案じ、私が寂しい思いをしないよう夜まで遊びに付き合ってくれた。セツナちゃんに至っては、「ちゃんと食べなきゃ駄目だよ?家事も良ければ手伝うからね」とよく手料理を持ってきてくれた。……人参が花形やうさぎの形に切られていたり、ハンバーグに野菜が練り込まれていたり、魚は骨が取ってあったり……何というか……気遣いの仕方が主婦レベルだった。
そんなこんなで、私達は夏を謳歌し───九月三日、二学期が始まった。
私達の物語は、ここから拍車をかけて動き出す。