第4夜 7節

文字数 847文字

それが─────ユキが【ヤミカガミ】になった、真実。

ユキはレナにそこまで語ると、「【ヤミカガミ】の侵蝕が、苦しいんでしょう?」と問いかけた。図星を突かれたレナは、瞳を逸らす。
くす……。ユキはそう嗤うと、小馬鹿にしたような口調で続けた。


「馬鹿ね。まだ【ヤミカガミ】に成る勇気を────【人間】を捨てる勇気を持てないのね。ああ、だからアンタは駄作なのよ。出来損ないなのよ、一代目。化け物に成る決意を、【ヤミカガミ】に成る決意を固めたら……もう、苦しくなんて無いのに。」


………それは、きっと本当なのだろう。
ユキの言う通り…【人間】で在ろうとするから、化け物のような力を何処かで否定していて、苦しいのだ。【人間】では無くなっていく事に恐怖を覚えるのだ。
────だけど、私は……人間で、在りたい。
化け物になんてなりたくない。
全てを壊すこの力を、認めたくない。
だがそう言ったところで、この研究所はレナに【ヤミカガミ】の実験をやめる選択を取らないだろう。だからこれは、レナが決断を先延ばしにして……勝手に苦しんでいるだけなのだ。
出来損ないだと、駄作だと、ユキがそう罵るのは…レナが「運命を変えられない事を分かっていながら抗おうと無駄な事をしているから」なのだろう。
……でも…、でも────。

レナの青い瞳が、ゆらゆらと揺れる。
ユキははぁ……と溜息を吐くと、構っても無駄ねと言うように背を向けた。


「……もう、五時が近づいているわ。今日はお終いね、早く帰りなさい」


もう、夜が明けようとしているのか。
これ以上は起床する実験体が出てくる……早く居住区域に戻らなければ、不審に思われてしまうだろう。ぐるぐると同じところをループする考えを棚に上げるように、レナは「帰らなきゃ」と云う思考を呼び出す。慌てて踵を返し、ぱたぱたと走って倉庫を後にするレナ。ユキはそれを見送ると、一人ぽつりとぼやいた。


「どうして……【ヤミカガミ】は私一人じゃいけないの…?レナは、どうして【特別】なの…?」


………それに応える者は、誰も居なかった。
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登場人物紹介

夜国 玲菜(やくに れな)


実験体A-11316-01


ブロンドのボブヘアに青いリボンと青い瞳の小柄な少女。

【発狂症】持ちにして、【ヤミカガミ】の適合者。妖の血を引いており、身体能力が高い。誰かを助けたいと強く思う反面、敵には容赦しないなど残酷。

白橋 雪奈(しらはし せつな)


実験体A-11316-02

 

紫がかった黒髪と黄金の瞳を持つ背の高い少女。類稀な「霊力」を秘めている。

神事【神憑り(かむがかり)の儀式】で繁栄を築いてきた「御光(みこう)家」の生まれ。 だが、儀式に出られるのは男児のみだったため一族から出来損ない呼ばわりされ虐待されて育つ。

白夜 雪音(びゃくや ゆきね)


実験体F-40556-E3


先端脳科学研究所で育ち、【クレナイ】に移ってきた実験体。

髪はもともとは黒かったが実験の影響で色が落ちてしまった。

実験を通して人間の限界まで身体能力を磨き上げられている。 おどおどしていて丁寧、優しい性格。

星野 有希(ほしの ゆき)


実験体L-90996-A4

 

学校でいじめを受けていた黒髪で眼鏡をかけた内気な少女。

レナの強さに勇気を貰っていじめっ子に反発したことでいじめが悪化し、屋上から身投げをする。その後【クレナイ】に拾われて二代目【ヤミカガミ】として完成する。だが、彼女は精神を破壊されており───。

サツキ


レナに助言を与える、銀の髪に紅の瞳を持つロリィタ服の少女。

対象の精神を汚染する「人を壊す力」を持ち、【クレナイ】の研究員と実験体に精神汚染を行っている【クレナイ】幹部にしてお姫様。

レナを特別視しているが、その理由とは…。

研究長:郷原雅人(さとはら まさと)


【Dolce】の職員にして能力開発研究所【クレナイ】の所長兼研究長。

人当たりがよく物腰柔らかで紳士的だが、倫理観がどうかしており、非人道的な人体実験だと理解した上で実験を行なっている狂人。
実は彼にも事情があって────。

ヒナ(緋那)


【感情の権化】───妖の1人にして、【死】そのものを司る、生きる厄災。

全てを奪い、失いながら永劫を生きる地獄に耐えられなくなり、禁呪を用いて命を絶った。だが、彼女の死が全ての物語の運命を歪める事となった───。

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