第三十五話 目覚め
文字数 887文字
深い眠りの中で、翠は夢を見ていた。小さい頃の夢。性懲りもなく迷子になった翠は、その場にしゃがみ込んで泣いていた。そこへ、息を切らせながら光陽が駆けてきた。彼はすぐに翠を抱きしめると、笑顔でお決まりの台詞を告げる。
『みーつけた』
そのまま手を繋いで、二人で家に帰る。繋いだ手からはいつも光陽の温もりが伝わってきて、帰りつく頃には元気になっていた。そうやって光陽が翠に力を分けてくれていたということを知ったのは、後のことだった。それを知ってからは、なるべく迷子にならないように心がけた。迷子になっても帰れるような対処法を峰隆師匠に聞いて実践するようにした。対処が出来るようになってからは、彼から力を与えられることはなかった。
ふと、身体の中に温もりが広がっていく。この感覚が夢ではないことはすぐに分かった。きっと、そこに光陽がいる。
助けに来てくれた――
嬉しい。でも、申し訳ない。そんな感情が翠の中で交差していく。でも、今は目覚めて彼を安心させなければ。翠はゆっくりと、瞼を開いた。
目を覚ませば、目の前には煌びやかな光陽の顔。いつの間にか人型に戻った身体は、しっかりと彼の腕の中に閉じ込められていた。状況を把握すると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。顔が熱い。光陽の顔を直視することが出来ず思わず俯くが、彼はそれを許してくれなかった。クイッと翠の顎を持ち上げ無理やり視線を合わせると、唇の端を吊り上げる。
「翠、何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい……」
表情とは裏腹にその目は笑っておらず、反射的に謝罪の言葉を口にする。明らかに光陽は怒っている。こういう時は素直に謝らなければ、後で何をされるか分からない。それは長い時をかけて翠に叩き込まれたことだった。そんな翠の反応を見て、彼は溜息をつく。何か間違っただろうかとおろおろしていると、ぎゅっと彼の胸板に顔を押し付けられた。突然の出来事に状況が呑み込めず、彼の腕の中で固まっていると、彼の顔が耳元に近づく。いつもは甘い声が、どこか切なげに言葉を奏でた。
『みーつけた』
そのまま手を繋いで、二人で家に帰る。繋いだ手からはいつも光陽の温もりが伝わってきて、帰りつく頃には元気になっていた。そうやって光陽が翠に力を分けてくれていたということを知ったのは、後のことだった。それを知ってからは、なるべく迷子にならないように心がけた。迷子になっても帰れるような対処法を峰隆師匠に聞いて実践するようにした。対処が出来るようになってからは、彼から力を与えられることはなかった。
ふと、身体の中に温もりが広がっていく。この感覚が夢ではないことはすぐに分かった。きっと、そこに光陽がいる。
助けに来てくれた――
嬉しい。でも、申し訳ない。そんな感情が翠の中で交差していく。でも、今は目覚めて彼を安心させなければ。翠はゆっくりと、瞼を開いた。
目を覚ませば、目の前には煌びやかな光陽の顔。いつの間にか人型に戻った身体は、しっかりと彼の腕の中に閉じ込められていた。状況を把握すると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。顔が熱い。光陽の顔を直視することが出来ず思わず俯くが、彼はそれを許してくれなかった。クイッと翠の顎を持ち上げ無理やり視線を合わせると、唇の端を吊り上げる。
「翠、何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい……」
表情とは裏腹にその目は笑っておらず、反射的に謝罪の言葉を口にする。明らかに光陽は怒っている。こういう時は素直に謝らなければ、後で何をされるか分からない。それは長い時をかけて翠に叩き込まれたことだった。そんな翠の反応を見て、彼は溜息をつく。何か間違っただろうかとおろおろしていると、ぎゅっと彼の胸板に顔を押し付けられた。突然の出来事に状況が呑み込めず、彼の腕の中で固まっていると、彼の顔が耳元に近づく。いつもは甘い声が、どこか切なげに言葉を奏でた。