第三十九話 作戦決行
文字数 1,118文字
翠はカマイタチの巣の近くの茂みに隠れていた。そこが翠の持ち場であり、巣の入り口がよく見えた。同時に、比較的安全な場所でもあった。自分を有効活用するのであれば、最前線で力を使わせた方が効率的なのだが、光陽はそのつもりはないらしい。普段は意地悪なのに、こういう時は本当に優しい。その優しさに報いる為にも、自分に与えられた役目はきっちりと果たさなければならない。姿が少しでも見えれば、壁を作ってゆく手を阻む。光陽から告げられた作戦を何度も頭の中で想像 する。今回の作戦は翠の壁がなければ、厳しいものになる。絶対に失敗が出来ない。緊張から、拳に力が入る。そんな時だった。不意に誰かから手を握られた。顔を上げれば、いつの間にか隣に水月がいた。そういえば、彼の持ち場もここだった。水月は翠の手を取ると、固く握られた指を一つずつ開いていく。
「緊張しすぎ。もっと楽に考えろ。風は翠の得意技なんだから」
「でも……」
「大丈夫だって。ほら、深呼吸」
言われるがまま深呼吸をすると、ふっと肩の力が抜ける。どうやら知らない間に体中に力が入っていたらしい。これでは確かに上手くいくものもいかない。また、悪い癖が出ていたようだ。ふっと、翠は口元を緩めた。
「ありがとう、水月。ちょっと落ち着いた」
「なら良かった。失敗しても光兄とあの人達なら何とか出来ると思うぞ?」
そう言って、再び水月は離れていった。翠よりも翠のことを分かっている幼馴染の存在に感謝しながらも、再び目の前の巣穴に意識を集中する。先ほど、光陽が巣穴に狐火を放った。、カマイタチ達が出てくるだろう。そう思っていると、ドンッと大きな音が響いてきた。ほどなくして巣穴からは白煙とカマイタチの悲鳴が漏れ出てくる。光陽の放った狐火が火薬か何かに引火したようだ。翠は気を引き締める。暫くすると、巣穴から茶色の頭が姿を現した。
(今だっ)
カマイタチが完全に姿を見せる前に、出口を塞ぐように風の壁を作り上げる。驚いたカマイタチ達が声を上げる前に、木の上からは光陽の優秀な部下達が矢を射かけていく。
「ぎゃぁっ!」
「くそうっ! どこから矢が……」
壁の向こう側がどうなっているかは翠からは見えなかった。だが、カマイタチの声から確実に矢が彼らを射抜いていることは分かった。彼らの悲鳴に、争いに慣れていない翠の心がチクりと痛む。罪悪感から集中が途切れそうになる。だが、作戦に参加するということは、こういうことも覚悟しなければならない。そう言い聞かせ、自分の中にある迷いを振り払う。頭上から矢の雨が降り注ぐ中、翠は意識を壁に集中させた。
「緊張しすぎ。もっと楽に考えろ。風は翠の得意技なんだから」
「でも……」
「大丈夫だって。ほら、深呼吸」
言われるがまま深呼吸をすると、ふっと肩の力が抜ける。どうやら知らない間に体中に力が入っていたらしい。これでは確かに上手くいくものもいかない。また、悪い癖が出ていたようだ。ふっと、翠は口元を緩めた。
「ありがとう、水月。ちょっと落ち着いた」
「なら良かった。失敗しても光兄とあの人達なら何とか出来ると思うぞ?」
そう言って、再び水月は離れていった。翠よりも翠のことを分かっている幼馴染の存在に感謝しながらも、再び目の前の巣穴に意識を集中する。先ほど、光陽が巣穴に狐火を放った。、カマイタチ達が出てくるだろう。そう思っていると、ドンッと大きな音が響いてきた。ほどなくして巣穴からは白煙とカマイタチの悲鳴が漏れ出てくる。光陽の放った狐火が火薬か何かに引火したようだ。翠は気を引き締める。暫くすると、巣穴から茶色の頭が姿を現した。
(今だっ)
カマイタチが完全に姿を見せる前に、出口を塞ぐように風の壁を作り上げる。驚いたカマイタチ達が声を上げる前に、木の上からは光陽の優秀な部下達が矢を射かけていく。
「ぎゃぁっ!」
「くそうっ! どこから矢が……」
壁の向こう側がどうなっているかは翠からは見えなかった。だが、カマイタチの声から確実に矢が彼らを射抜いていることは分かった。彼らの悲鳴に、争いに慣れていない翠の心がチクりと痛む。罪悪感から集中が途切れそうになる。だが、作戦に参加するということは、こういうことも覚悟しなければならない。そう言い聞かせ、自分の中にある迷いを振り払う。頭上から矢の雨が降り注ぐ中、翠は意識を壁に集中させた。