第二十八話 玄武門
文字数 921文字
その頃、カマイタチを追いかけていた翠は、都の北側、玄武門の前までやってきていた。匂いの糸は街道を抜け、玄武門の先、都の外へと続いている。けれど、事件の影響で検問が行われており、簡単には門の外には出られそうになかった。空を飛んでいくという手もあるが、壁の上には罠が仕掛けられていると聞いたことがある。
(どうする……)
早くしなければ細い糸は断ち切れてしまう。こんな所で時間を無駄にするわけにはいかない。そんなことを考えながら辺りを見回すと、門から少し離れた壁面から一匹のネズミが顔を出した。ねずみは前足に力を入れると、穴から身体を出し、街中へと消えていく。ネズミが完全にいなくなったことを確認した後、ネズミが出てきた場所へと向かう。そこには、小動物がようやく通れる程度の穴が開いていた。変化してここを通るしか、抜け出す方法はないだろう。ここまで力を消耗している状態での変化はあまり経験がない。最悪、しばらく人型に戻れないかもしれない。それでも、簪を取り返す為にはやるしかない。周囲を見回し、誰も見ていないことを確認した後、意識を集中して身体の周囲に風を纏う。風の壁が消えると、小さなトラツグミが姿を現す。
(――行こう)
おぼつかない足取りで穴の中に潜り込む。一族の中では変化の姿も小さい方ではあるが、それでもギリギリ通れる大きさだった。先ほどのネズミも通るのはかなりきつかったのではないか。そんなことを考えながら、身を屈めながら小さな横穴 を通り抜けていった。小さな光が次第に大きくなり、やがて、周囲が明るくなり緑色の木々が現れる。その瞬間、先ほどまで微かにしか香らなかった匂いが一気に濃くなった。
(近くにいる……)
門番達に見つからないように慎重に森の中に入る。そして門が見えなくなった瞬間、その羽を広げて大空へと飛び立った。風が身体を浮かせてくれるのを感じながら、翼を羽ばたかせる。前へ進むにつれ、毒の匂いは強くなる。おそらく、カマイタチの巣が近いのだろう。そして、そこに翠の目的の物もあるはずだ。自分の中の鵺に性に突き動かされながら、翠は一心不乱に匂いの元を辿っていった。
(どうする……)
早くしなければ細い糸は断ち切れてしまう。こんな所で時間を無駄にするわけにはいかない。そんなことを考えながら辺りを見回すと、門から少し離れた壁面から一匹のネズミが顔を出した。ねずみは前足に力を入れると、穴から身体を出し、街中へと消えていく。ネズミが完全にいなくなったことを確認した後、ネズミが出てきた場所へと向かう。そこには、小動物がようやく通れる程度の穴が開いていた。変化してここを通るしか、抜け出す方法はないだろう。ここまで力を消耗している状態での変化はあまり経験がない。最悪、しばらく人型に戻れないかもしれない。それでも、簪を取り返す為にはやるしかない。周囲を見回し、誰も見ていないことを確認した後、意識を集中して身体の周囲に風を纏う。風の壁が消えると、小さなトラツグミが姿を現す。
(――行こう)
おぼつかない足取りで穴の中に潜り込む。一族の中では変化の姿も小さい方ではあるが、それでもギリギリ通れる大きさだった。先ほどのネズミも通るのはかなりきつかったのではないか。そんなことを考えながら、身を屈めながら小さな
(近くにいる……)
門番達に見つからないように慎重に森の中に入る。そして門が見えなくなった瞬間、その羽を広げて大空へと飛び立った。風が身体を浮かせてくれるのを感じながら、翼を羽ばたかせる。前へ進むにつれ、毒の匂いは強くなる。おそらく、カマイタチの巣が近いのだろう。そして、そこに翠の目的の物もあるはずだ。自分の中の鵺に性に突き動かされながら、翠は一心不乱に匂いの元を辿っていった。