第四十三話 探し物

文字数 1,012文字

 巣穴の中は焦げ臭かったが、火は既に鎮火されていた。光陽は狐火だけではなく、普通の火も扱える。おそらく、ここに入る前に彼が消したのだろう。火を消す為にどれだけのエネルギーがいるかは分からない。だが、鎮火した上にあれだけの戦闘を繰り広げたというのに光陽に疲れは全く見られない。彼は一体どれだけの力を持っているのだろう。そんな疑問を抱きながら、彼に抱きかかえられたまま一室一室、中を確認していく。しかし、簪どころか盗まれたはずの装飾品は一つたりとも見つからなかった。代わりに見つかるのは、空っぽの麻袋のみ。



「どうして……」
「もしかしたら、奴らが持って出たのかもしれない。次が最後の部屋だ」



 一番大きな空間に入る。しかし、そこが爆心地だったのだろう。明かりも消えており、何も見えなかった。光陽が狐火を出し、周囲を照らせば壁から天井に至るまで真っ黒に焦げ付いた空間が広がる。そして、壁際の机の上にポツンと置かれた袋を見つけた。今までの麻袋と違い、中身が入っているようだった。翠は光陽から強引に降り、袋を逆さまにする。中からは運よく難を逃れた装飾品が零れ落ちた。所々熱で溶けてしまっている箇所もあったが、どれも形を保っていた。その一つ一つを手に取り、確認していく。



 首飾り、腕輪、指輪――



「違う……これも違う……」



 全て確認をするが、簪はどこにもなかった。翠はその場にへたり込む。あれは何にも代えられないものなのに。



(どうしよう……)



 その言葉だけが頭の中を堂々巡りする。何も考えられなくなっていた。ポタリと水滴が地面を濡らす。ふと目元に触れれば、そこから大粒の涙がボロボロと零れ落ちていた。



「翠」



 ふわりと背に腕を回され、頭をぎゅっと肩口に押し付けられた。ポンポンと、優しい手が頭を撫でる。



「大事にしてくれてありがとう。もしかしたらカマイタチ達が懐に隠し持っているかもしれない。外に出てまた探そう。だから、もう泣かないで」



 まるで幼子を宥めるかのように、優しく翠を諭す。その優しい声が、翠の心を締め付ける。せっかく貰った大事な物なのに、失くしてしまった。「ごめんなさい」と何度も呟きながら、翠は子どものように泣きじゃくった。もう、限界だった。泣いて、泣いて、泣き疲れた翠はそのまま意識を失った。



 巣穴の外では雨が降り始めた――



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登場人物紹介

翠(すい):17歳の鵺。力を一部しか使えず、自分に自信がない為、身分や立場にこだわるようになった。身の丈にあった生活をすることが夢であったが、大好きな従姉に請われ、従姉を支える為に出仕した。現在、皇后付き兼帝付きの侍女をしている。幼少期に助けてもらって以来、光陽に恋心を抱いているが、大人になってからは距離を取るようになった。

光陽(こうよう):22歳の鬼と妖狐のハーフ。仕事には真面目であり、現在近衛左中将の地位にある。帝とは乳兄弟で、帝が心を許せる数少ない相手。天然たらしな為、宮中にいる時は周りに女性がいることが多い。が、本人は恋愛に疎く、友情の恋愛の違いが分かっていない。狐の性質が翠に向かいやすく、翠をからかって遊ぶことが好き。皇后からは嫌われているが、自身も皇后を苦手にしている。

有比良(ありひら):銀鬼国の今上帝。この国で最強の鬼で22歳。光陽とは乳兄弟で光陽を信頼している。クールで寡黙だが皇后を溺愛している。後宮には約100人の妃がいる為、光陽からは「ムッツリスケベ」と呼ばれている。

香子(かおるこ):鵺で翠の従姉。皇后として有比良を支える。翠のことになると猪突猛進になりがちで、はっきりしない光陽が嫌い。隙あれば光陽を呪い殺そうとする。

水月(みづき):翠の幼なじみの鵺。鵺としての力は弱いが、配達屋としての地位を確立。貴族からの信頼も厚い。翠が好きだが本人にはこれっぽっちも伝わっていない。

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