第二十二話 最善策
文字数 1,223文字
何のために朝廷で報告をしたのか、理解が出来ない。官達は口々に不平不満を漏らす。光陽から見ても、乳兄弟が何をしたいのか理解できなかった。朝廷を抜け出し、帝を追いかけ御座所へと向かう。
御座所を訪れると、待っていましたとばかりに帝が出迎える。そんな呑気な帝に、思わずため息が漏れる。
「有比良、お前一体何を考えてるんだよ」
「穏便な解決だが?」
「穏便な解決って言っても、他にやり方あったと思うが? 相手は毒爪を持ってるのを忘れたりしてないよな?」
「だからこそだ。あんまり人数が多いと、彼女の力では守れなくなる」
その言葉を聞き、思わず目を見開く。帝の真意は分かったが、同時に怒りがこみあげてくる。相手がただの乳兄弟であれば、この場に二人きりであれば、今すぐ胸倉をつかんで殴りかかってやるのに。袴の裾を掴み、必死に衝動を抑えながら、拳の代わりに言葉で殴り掛かる。
「あいつはただの侍女だ! こんな汚れ仕事にあいつを巻き込む気かこの鬼畜!」
「一応、人がいるんだ。言葉遣いに気をつけろ」
「お前が言わせてるんだっ!」
「怒るな。それが最善なのは、お前にも分かっているだろ?」
確かに防御においては、翠とカマイタチは相性が良い。それは光陽だって分かっている。だが、翠を作戦に組み込まれるのは嫌だ。まるでお気に入りの玩具で勝手に遊ばれたことを怒っているような、そんな子供じみた感情が光陽の中に渦巻く。気持ちを抑えることが出来ず、返事の代わりに歯をむき出しにして帝を睨みつける。そんな聞き分けのない乳兄弟に、帝は思わず苦笑いを浮かべた。
「そんなに翠が大事か?」
「あれは俺のだ。誰にも使わせない」
「ならさっさと囲ってしまえ」
「……それは、出来ない」
あからさまにトーンが下がる。しっぽが生えていたのなら、シュンと垂れ下がっていただろう。これほどまでに思っているのに、意外とこの男は意気地がない。自分の感情に気付いていないわけではないだろうが、よっぽど拒否され続けているのが堪えているらしい。けれど、実は自業自得だということには気付いていないだろう。何はともあれ、相手の勢いが弱まった所で、帝はダメ押しの一言を告げる。
「今は翠は俺の侍女だ。俺がどう使おうと俺の自由だろ?」
強い鬼程、優しいはずではなかったのか――
光陽は項垂れる。今の自分に翠をどうこうする権利がなかったことを思い知らされた。乳兄弟の前に完全敗北を喫した。そんな光陽を満足気に眺めながら、帝は立ち上がる。
「今から香子の所に行く。香子に許可をもらわないといけないからな」
「はいはい。お供いたしますよ」
「香子に怒られないように気をつけろよ」
「無理だね。皇后様は俺がいるだけでご機嫌を損ねるから」
「自業自得だ」
そんな軽口を叩きながら、御座所を出る。香涼殿までは御座所からすぐだった。
御座所を訪れると、待っていましたとばかりに帝が出迎える。そんな呑気な帝に、思わずため息が漏れる。
「有比良、お前一体何を考えてるんだよ」
「穏便な解決だが?」
「穏便な解決って言っても、他にやり方あったと思うが? 相手は毒爪を持ってるのを忘れたりしてないよな?」
「だからこそだ。あんまり人数が多いと、彼女の力では守れなくなる」
その言葉を聞き、思わず目を見開く。帝の真意は分かったが、同時に怒りがこみあげてくる。相手がただの乳兄弟であれば、この場に二人きりであれば、今すぐ胸倉をつかんで殴りかかってやるのに。袴の裾を掴み、必死に衝動を抑えながら、拳の代わりに言葉で殴り掛かる。
「あいつはただの侍女だ! こんな汚れ仕事にあいつを巻き込む気かこの鬼畜!」
「一応、人がいるんだ。言葉遣いに気をつけろ」
「お前が言わせてるんだっ!」
「怒るな。それが最善なのは、お前にも分かっているだろ?」
確かに防御においては、翠とカマイタチは相性が良い。それは光陽だって分かっている。だが、翠を作戦に組み込まれるのは嫌だ。まるでお気に入りの玩具で勝手に遊ばれたことを怒っているような、そんな子供じみた感情が光陽の中に渦巻く。気持ちを抑えることが出来ず、返事の代わりに歯をむき出しにして帝を睨みつける。そんな聞き分けのない乳兄弟に、帝は思わず苦笑いを浮かべた。
「そんなに翠が大事か?」
「あれは俺のだ。誰にも使わせない」
「ならさっさと囲ってしまえ」
「……それは、出来ない」
あからさまにトーンが下がる。しっぽが生えていたのなら、シュンと垂れ下がっていただろう。これほどまでに思っているのに、意外とこの男は意気地がない。自分の感情に気付いていないわけではないだろうが、よっぽど拒否され続けているのが堪えているらしい。けれど、実は自業自得だということには気付いていないだろう。何はともあれ、相手の勢いが弱まった所で、帝はダメ押しの一言を告げる。
「今は翠は俺の侍女だ。俺がどう使おうと俺の自由だろ?」
強い鬼程、優しいはずではなかったのか――
光陽は項垂れる。今の自分に翠をどうこうする権利がなかったことを思い知らされた。乳兄弟の前に完全敗北を喫した。そんな光陽を満足気に眺めながら、帝は立ち上がる。
「今から香子の所に行く。香子に許可をもらわないといけないからな」
「はいはい。お供いたしますよ」
「香子に怒られないように気をつけろよ」
「無理だね。皇后様は俺がいるだけでご機嫌を損ねるから」
「自業自得だ」
そんな軽口を叩きながら、御座所を出る。香涼殿までは御座所からすぐだった。