第十五話 配達屋
文字数 1,095文字
重みを感じながら、朝市の場から離れた。そのまま街道をまっすぐ進み、店の前に立つ。看板には読みづらいが大きな文字で「配達屋」と書かれていた。
「ごめんください」
「はーい……」
店の戸を叩き、声をかける。すぐに、寝ぐせ姿の青年が眠そうに目をこすりながら出てきた。今の今まで寝ていたのだろう。起こしてしまったことを申し訳なく思いながらも、あまりにだらしのない姿に翠は眉間に皺を寄せ苦言を呈す。
「水月 、わたしじゃなかったらどうするつもりだったの?」
「その時は待ってもらって、ちゃんと身だしなみ整えて出るさ」
悪びれもせず、屈託のない笑顔を向けてくる。そんな所は、昔から変わらない。
水月は翠の幼馴染だ。一族の同年代では唯一、翠に優しくしてくれた存在でもある。水月自身、鵺の力は弱い。だからこそ、半端者の翠の気持ちを分かってくれていた。いつも明るく太陽のようなその笑顔に、何度助けられただろう。昔はよく寿々音の屋敷に遊びに行っていたが、大人になりお互い職についてからはそう頻繁には会えなくなった。けれど、こうして仕事の合間に会うと、どこかホッとする。翠にとっては安心できる場所だった。
水月はいつものように、笑顔で翠を見つめる。おそらく、翠が何のためにここに来たのかを分かっていて、その上で翠の言葉を待っているのだろう。そのことに気付くと、翠は手に持った籠を見せる。
「これを香涼殿に配達してもらえる? まだ買い物があって、一人じゃ持って帰れそうにないから」
「分かった。香子様の所に俺が責任もって運んでやる。いつ運べばいい?」
「多分朝は皆さまお疲れだと思うから……お昼すぎにお願い出来る?」
「あいよ。お前の頼みならお安い御用だ」
彼は満足そうに目元を綻ばせる。いつもそうだ。水月は翠が頼み事をするととても喜ぶ。何故そうなのかは翠には分からないが、人から頼られるのが好きなのかもしれない。そう思い、遠慮なく籠を置くと、ふいに水月に手を引かれた。慌てて顔を上げると、ぐいっと彼の顔が近づいてくる。訝しげに翠の顔を見つめた後、彼の顔から表情が消えた。
「お前、またあの左中将に泣かされただろ?」
「……やっぱり分かる?」
「化粧でうまくごまかしてるから初対面の人にはばれないだろうけどな。でも俺をだませるとは思ってなかっただろ?」
「まぁ……幼馴染だし」
「ちょっと待ってな。薬と冷やすもの持ってくるから」
そう言って、水月は奥に入っていく。待っている間、特に何もすることがなかったので玄関先に腰掛けた。
「ごめんください」
「はーい……」
店の戸を叩き、声をかける。すぐに、寝ぐせ姿の青年が眠そうに目をこすりながら出てきた。今の今まで寝ていたのだろう。起こしてしまったことを申し訳なく思いながらも、あまりにだらしのない姿に翠は眉間に皺を寄せ苦言を呈す。
「
「その時は待ってもらって、ちゃんと身だしなみ整えて出るさ」
悪びれもせず、屈託のない笑顔を向けてくる。そんな所は、昔から変わらない。
水月は翠の幼馴染だ。一族の同年代では唯一、翠に優しくしてくれた存在でもある。水月自身、鵺の力は弱い。だからこそ、半端者の翠の気持ちを分かってくれていた。いつも明るく太陽のようなその笑顔に、何度助けられただろう。昔はよく寿々音の屋敷に遊びに行っていたが、大人になりお互い職についてからはそう頻繁には会えなくなった。けれど、こうして仕事の合間に会うと、どこかホッとする。翠にとっては安心できる場所だった。
水月はいつものように、笑顔で翠を見つめる。おそらく、翠が何のためにここに来たのかを分かっていて、その上で翠の言葉を待っているのだろう。そのことに気付くと、翠は手に持った籠を見せる。
「これを香涼殿に配達してもらえる? まだ買い物があって、一人じゃ持って帰れそうにないから」
「分かった。香子様の所に俺が責任もって運んでやる。いつ運べばいい?」
「多分朝は皆さまお疲れだと思うから……お昼すぎにお願い出来る?」
「あいよ。お前の頼みならお安い御用だ」
彼は満足そうに目元を綻ばせる。いつもそうだ。水月は翠が頼み事をするととても喜ぶ。何故そうなのかは翠には分からないが、人から頼られるのが好きなのかもしれない。そう思い、遠慮なく籠を置くと、ふいに水月に手を引かれた。慌てて顔を上げると、ぐいっと彼の顔が近づいてくる。訝しげに翠の顔を見つめた後、彼の顔から表情が消えた。
「お前、またあの左中将に泣かされただろ?」
「……やっぱり分かる?」
「化粧でうまくごまかしてるから初対面の人にはばれないだろうけどな。でも俺をだませるとは思ってなかっただろ?」
「まぁ……幼馴染だし」
「ちょっと待ってな。薬と冷やすもの持ってくるから」
そう言って、水月は奥に入っていく。待っている間、特に何もすることがなかったので玄関先に腰掛けた。