第十九話 時間稼ぎ
文字数 917文字
攻防は、二十分間続いた――
力の使い過ぎは、体力を消耗させる。特にカマイタチは攻撃回数が多い。かなり消耗していたようで、地面に片膝をつき、肩で息を整えていた。捕まえる絶好の機会だったが、体力が削られるのは翠とて同じ。連続して力を使い続けた結果、その場からもう一歩も動けない状態になっていた。
両者、一歩も動けないまま睨みあいが続いた――
早く何とかしなければと思うが、身体が言うことを聞かない。普段、こういう仕事に慣れていない翠の方がカマイタチよりも分が悪かった。このまま持久戦になれば、間違いなく翠は毒爪の餌食になるだろう。その前に何とかしなければと思うが、焦れば焦るほどいい手は浮かばない。それでも必死に頭を働かせていると、どこからか「ピー」という笛が聞こえてきた。
「検非違使かっ!」
警笛の音を聞き、カマイタチは分かりやすく狼狽える。あれだけ派手にやりあったのだ。音を聞きつけた誰かが検非違使に通告してくれたのだろう。これで助かると、翠は胸を撫で下ろした。だが、このままカマイタチを逃がしてはいけない。捕まえるのはもう無理だが、時間を稼ぐことならば出来る。あともうひと踏ん張り。そう自分を鼓舞しながら、翠は口を開いた。
「ねぇ」
「なんだよ?」
「なんでこんなことを? 荷馬車を襲った方が効率的じゃないの?」
「俺もそっちの方が性にあってるけど仕方ねーんだよ! 頼まれたんだから!」
「頼まれた?」
「そう! 女の装飾品を盗ってこいって。じゃなきゃ俺たちだってこんな危ない橋渡んねーよ!」
「断れない相手なんだ。誰に頼まれたの?」
「それは北の……ってなんでそんなことお前に言わなきゃなんないんだよ!」
やはり翠の下手な尋問では、簡単には口を割ってはくれなかった。だが、少しは時間が稼げたようだ。もうすぐ傍まで、検非違使の足音が聞こえてきていた。
「こっちだ! 急げっ!」
「逃がすなっ!」
次第に近くなる声に、カマイタチは焦りの色を濃くし、大きな瞳でキョロキョロと辺りを見回す。逃げる経路を捜しているのだろう。自分の身を守る為に、翠も警戒を強めた。
力の使い過ぎは、体力を消耗させる。特にカマイタチは攻撃回数が多い。かなり消耗していたようで、地面に片膝をつき、肩で息を整えていた。捕まえる絶好の機会だったが、体力が削られるのは翠とて同じ。連続して力を使い続けた結果、その場からもう一歩も動けない状態になっていた。
両者、一歩も動けないまま睨みあいが続いた――
早く何とかしなければと思うが、身体が言うことを聞かない。普段、こういう仕事に慣れていない翠の方がカマイタチよりも分が悪かった。このまま持久戦になれば、間違いなく翠は毒爪の餌食になるだろう。その前に何とかしなければと思うが、焦れば焦るほどいい手は浮かばない。それでも必死に頭を働かせていると、どこからか「ピー」という笛が聞こえてきた。
「検非違使かっ!」
警笛の音を聞き、カマイタチは分かりやすく狼狽える。あれだけ派手にやりあったのだ。音を聞きつけた誰かが検非違使に通告してくれたのだろう。これで助かると、翠は胸を撫で下ろした。だが、このままカマイタチを逃がしてはいけない。捕まえるのはもう無理だが、時間を稼ぐことならば出来る。あともうひと踏ん張り。そう自分を鼓舞しながら、翠は口を開いた。
「ねぇ」
「なんだよ?」
「なんでこんなことを? 荷馬車を襲った方が効率的じゃないの?」
「俺もそっちの方が性にあってるけど仕方ねーんだよ! 頼まれたんだから!」
「頼まれた?」
「そう! 女の装飾品を盗ってこいって。じゃなきゃ俺たちだってこんな危ない橋渡んねーよ!」
「断れない相手なんだ。誰に頼まれたの?」
「それは北の……ってなんでそんなことお前に言わなきゃなんないんだよ!」
やはり翠の下手な尋問では、簡単には口を割ってはくれなかった。だが、少しは時間が稼げたようだ。もうすぐ傍まで、検非違使の足音が聞こえてきていた。
「こっちだ! 急げっ!」
「逃がすなっ!」
次第に近くなる声に、カマイタチは焦りの色を濃くし、大きな瞳でキョロキョロと辺りを見回す。逃げる経路を捜しているのだろう。自分の身を守る為に、翠も警戒を強めた。