第五十三話 叱責
文字数 1,070文字
「この意気地なし! 覚悟もないくせに、どうして思わせぶりな態度ばかり取るの!」
感情に流されるままに、愛らしい顔には似合わない怒号が飛んできた。その勢いに圧倒され、思わず身をすくませる。反論したい気持ちはあったが、あまりの剣幕に言葉が出ない。この皇后の前に出ると、普段の飄々とした気質が消え失せてしまう。それだけ、皇后が恐かったのだ。だが、そんな光陽の気持ちを皇后が汲み取ってくれるはずはなく、耳に痛い言葉ばかりがぶつけられる。
「どれだけ翠の気持ちを弄んで振り回したら気が済むの! 貴方が思わせぶりな態度をする度にあの子の心は傷ついているのよ! いい加減にしてよ! 貴方には相手をしてくれる女の子はたくさんいるでしょう? 遊んで欲しいならあなたに群がる侍女に遊んでもらいなさいよ!」
早口でまくし立てると、皇后は肩を上下させながら息を整える。暫しの沈黙が部屋に流れるが、長くは続かなかった。皇后は背を向けると、温度の低い声で光陽を切り捨てる。
「出てって。それから主上に伝えて頂戴。翠を主上付きから解任させてください。そうしてくださるならお会い致します、と。あと……」
振り向くと、汚い物でも見るかのような視線で射ながら光陽をけん制する。
「自分の行いを、今一度振り返りなさい。今後どう翠に接するのがあの子を傷つけずに済むのか、答えが出るまであの子に会うことは許しません。あの子は我が鵺一族の宝なの。もしこれ以上傷つけたなら……御身がどうなるか保証は出来ません」
「……御意」
「分かったならいいわ。もう顔も見たくないからさっさと出てって」
「失礼いたします」
一礼すると、皇后の居室を後にした。香涼殿を出て、ようやく息を吸うことが出来る。腕を伸ばせば筋肉が強張っているのを感じる。緊張感で身体がガチガチに固まっていたようだった。覚悟はしていたが皇后の剣幕は凄まじかった。けれど、皇后の言葉は真理をついていた。
「翠を傷つけずに済む方法、か……」
それが分かればこんなことにはなっていない。だからこそ、ここまでズルズルと来てしまったのだ。だが、もう目を背けてばかりはいられないのかもしれない。少なくとも、翠と会えなくなるのは寂しい。それを避ける為には、自分と向き合うしかない。
「はぁ……有比良に相談するか」
ここはもう乳兄弟に頼るしかなかった。どちらにしろ、皇后の伝言も伝えなければならない。溜息をつきながら、光陽は再び御座所へと足を進めていった。
感情に流されるままに、愛らしい顔には似合わない怒号が飛んできた。その勢いに圧倒され、思わず身をすくませる。反論したい気持ちはあったが、あまりの剣幕に言葉が出ない。この皇后の前に出ると、普段の飄々とした気質が消え失せてしまう。それだけ、皇后が恐かったのだ。だが、そんな光陽の気持ちを皇后が汲み取ってくれるはずはなく、耳に痛い言葉ばかりがぶつけられる。
「どれだけ翠の気持ちを弄んで振り回したら気が済むの! 貴方が思わせぶりな態度をする度にあの子の心は傷ついているのよ! いい加減にしてよ! 貴方には相手をしてくれる女の子はたくさんいるでしょう? 遊んで欲しいならあなたに群がる侍女に遊んでもらいなさいよ!」
早口でまくし立てると、皇后は肩を上下させながら息を整える。暫しの沈黙が部屋に流れるが、長くは続かなかった。皇后は背を向けると、温度の低い声で光陽を切り捨てる。
「出てって。それから主上に伝えて頂戴。翠を主上付きから解任させてください。そうしてくださるならお会い致します、と。あと……」
振り向くと、汚い物でも見るかのような視線で射ながら光陽をけん制する。
「自分の行いを、今一度振り返りなさい。今後どう翠に接するのがあの子を傷つけずに済むのか、答えが出るまであの子に会うことは許しません。あの子は我が鵺一族の宝なの。もしこれ以上傷つけたなら……御身がどうなるか保証は出来ません」
「……御意」
「分かったならいいわ。もう顔も見たくないからさっさと出てって」
「失礼いたします」
一礼すると、皇后の居室を後にした。香涼殿を出て、ようやく息を吸うことが出来る。腕を伸ばせば筋肉が強張っているのを感じる。緊張感で身体がガチガチに固まっていたようだった。覚悟はしていたが皇后の剣幕は凄まじかった。けれど、皇后の言葉は真理をついていた。
「翠を傷つけずに済む方法、か……」
それが分かればこんなことにはなっていない。だからこそ、ここまでズルズルと来てしまったのだ。だが、もう目を背けてばかりはいられないのかもしれない。少なくとも、翠と会えなくなるのは寂しい。それを避ける為には、自分と向き合うしかない。
「はぁ……有比良に相談するか」
ここはもう乳兄弟に頼るしかなかった。どちらにしろ、皇后の伝言も伝えなければならない。溜息をつきながら、光陽は再び御座所へと足を進めていった。