第十三話 毒爪

文字数 770文字

 老人は「フォフォフォ」と笑いながら髭を撫でている。こめかみに青筋が浮かぶのを必死に抑えながら、光陽は笑顔を貫く。今ここでこの御仁を怒らせればもらえる情報がもらえなくなる。今は非常時だ。そう自分に言い聞かせながら、握った拳をプルプルと震わせる。そんな光陽の様子を見た峰隆は、満足気に目を細める。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。



「単刀直入に言おう。カマイタチの爪に白牙の毒、ドクウツギが使われておる」
「……それで、娘は無事なのですか?」
「そやつがすぐ儂を呼んだからの。処置は完璧じゃ。だが、もう少し遅ければあぶなかったじゃろうな。あれは致死率が高い」



 平然と言ってのけられたその言葉に、血の気が引いていく。予感が現実になってしまった。試験(テスト)に不正解を記入した愛弟子に対し、師匠は厳しい視線を向ける。



「……さて、お前は本当にこんな所で待機しておってよいのか?」
「言われなくても分かっています。商人、邪魔をした。娘に何かあればまた知らせてくれ。追ってまた連絡する」
「こちらこそ、ありがとうございました。私共のことはいいので、早く行ってください」



 商人に一礼した後、足早に部屋を出る。そのまま宮廷に戻ろうと屋敷を出た時、ちょうど部下達は戻ってきた。その顔色は、皆一様に暗い。



「娘達が……死んだんだな」



 主の問いかけに、部下は短く「御意」と返すのみ――



 これは全て、自分の責任だ。初動を間違えた。そこに尽きる。もうこれ以上は失敗できない。失敗しない。



「俺は宮廷に帰る。お前達はすぐ奴らの捜索に当たれ。絶対に捕まえるぞ」



 部下はすぐに散っていった。空はもう明るくなってきている。これ以上時間を無駄には出来ない。光陽も宮廷へと走った。帝に全てを報告する為に……



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登場人物紹介

翠(すい):17歳の鵺。力を一部しか使えず、自分に自信がない為、身分や立場にこだわるようになった。身の丈にあった生活をすることが夢であったが、大好きな従姉に請われ、従姉を支える為に出仕した。現在、皇后付き兼帝付きの侍女をしている。幼少期に助けてもらって以来、光陽に恋心を抱いているが、大人になってからは距離を取るようになった。

光陽(こうよう):22歳の鬼と妖狐のハーフ。仕事には真面目であり、現在近衛左中将の地位にある。帝とは乳兄弟で、帝が心を許せる数少ない相手。天然たらしな為、宮中にいる時は周りに女性がいることが多い。が、本人は恋愛に疎く、友情の恋愛の違いが分かっていない。狐の性質が翠に向かいやすく、翠をからかって遊ぶことが好き。皇后からは嫌われているが、自身も皇后を苦手にしている。

有比良(ありひら):銀鬼国の今上帝。この国で最強の鬼で22歳。光陽とは乳兄弟で光陽を信頼している。クールで寡黙だが皇后を溺愛している。後宮には約100人の妃がいる為、光陽からは「ムッツリスケベ」と呼ばれている。

香子(かおるこ):鵺で翠の従姉。皇后として有比良を支える。翠のことになると猪突猛進になりがちで、はっきりしない光陽が嫌い。隙あれば光陽を呪い殺そうとする。

水月(みづき):翠の幼なじみの鵺。鵺としての力は弱いが、配達屋としての地位を確立。貴族からの信頼も厚い。翠が好きだが本人にはこれっぽっちも伝わっていない。

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