第三十四話 発見

文字数 938文字

 そのまま暫く歩き続けた。いつしか獣の通った道も消え去り、高く生い茂る草を薙ぎ払いながら新たな道を作る。いつしか、鍛え上げられた部下達の額にも汗が滲んでいた。終わりの見えない行程に精神も疲弊してきたその時だった。



 ヒューヒュー……



 鳴き声がひと際大きく耳元で響いた。翠が近い。そう確信した光陽は、音を頼りに走り出した。無我夢中で進めば、目の前に少し開けた空間が現れる。その中央には大きな木が一本。その木の下に蹲る、小さな塊。それが翠だと、光陽には遠目でも分かった。そっと木に近づき地面に膝をつくと、光陽はまるで壊れ物でも扱うかのように優しく、小さな塊を腕に抱いた。



 温かい――



 力を使い果たしたトラツグミは、すやすやと眠っている。見たところ、目立った外傷はなかった。その事実に安堵しながら、目元を緩める。



「全く……翠は頑張りすぎだよ」



 そう囁きながら柔らかい羽毛を撫でるが、全く起きる気配がない。こんな無防備な姿をさらすなんて、彼女はどれだけ力を使ってしまったのか……。



 いつもそうだった。翠はいつも一人で頑張りすぎてしまう。そこまでしなくてもいいと、周りは思っているのに、彼女にはそれが伝わらない。



  自分は出来損ない――



 足手まといにならないようにしなければ――



 その思いが、翠を一人で突っ走らせる。それでも幼い頃はまだ助けを求めてくれる所もあったが、成長すればするほど、周りに助けを求めなくなった。自分一人で解決できないことでも、無意識に浮かんでくる思考に邪魔され、一人でどうにかしようとする。それだけ、翠の自尊心は低いし、彼女にかけられ続けてきた呪いの言葉は根深い。



(だから巻き込みたくなかったのに……)



 何故自分から巻き込まれてしまったのか。光陽の気持ちも知らずに眠り続ける彼女の額を、指で軽く突く。それでも翠は目を覚まさない。よっぽど、眠りが深いらしい。



「起きたらお仕置きだからな」



 その丸い額に、ゆっくり唇を落とした。擽ったいようで身じろぎする翠に微笑みながら、幹を背もたれに座り込む。そして、眠り続ける彼女の小さな身体をぎゅっと、抱きしめた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

翠(すい):17歳の鵺。力を一部しか使えず、自分に自信がない為、身分や立場にこだわるようになった。身の丈にあった生活をすることが夢であったが、大好きな従姉に請われ、従姉を支える為に出仕した。現在、皇后付き兼帝付きの侍女をしている。幼少期に助けてもらって以来、光陽に恋心を抱いているが、大人になってからは距離を取るようになった。

光陽(こうよう):22歳の鬼と妖狐のハーフ。仕事には真面目であり、現在近衛左中将の地位にある。帝とは乳兄弟で、帝が心を許せる数少ない相手。天然たらしな為、宮中にいる時は周りに女性がいることが多い。が、本人は恋愛に疎く、友情の恋愛の違いが分かっていない。狐の性質が翠に向かいやすく、翠をからかって遊ぶことが好き。皇后からは嫌われているが、自身も皇后を苦手にしている。

有比良(ありひら):銀鬼国の今上帝。この国で最強の鬼で22歳。光陽とは乳兄弟で光陽を信頼している。クールで寡黙だが皇后を溺愛している。後宮には約100人の妃がいる為、光陽からは「ムッツリスケベ」と呼ばれている。

香子(かおるこ):鵺で翠の従姉。皇后として有比良を支える。翠のことになると猪突猛進になりがちで、はっきりしない光陽が嫌い。隙あれば光陽を呪い殺そうとする。

水月(みづき):翠の幼なじみの鵺。鵺としての力は弱いが、配達屋としての地位を確立。貴族からの信頼も厚い。翠が好きだが本人にはこれっぽっちも伝わっていない。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み