第三十二話 思い出の森
文字数 930文字
光陽と出会ったのは、翠が五つか六つの頃。普通の鵺であれば、遅くても三つの頃には変化が出来るのに、翠はその年頃になっても変化が出来なかった。未熟な翠を見た大人達は「駄目な子」と蔑み、同年代の子ども達は「出来損ない」「役立たず」と罵っていた。呪いの言葉を毎日のように浴び、翠自身自分のことを駄目な子だと思うようになっていた。けれど、この頃の翠はまだ努力していた。周りに追いつけるように、毎日鍛錬を繰り返した。最も、変化は言葉を覚えるように自然に出来るようになる現象 だ。その鍛錬がどこまで意味があったのかは分からない。それでも信じて続けていた辺り、その頃の翠はまだ純粋だったのだろうと思う。
そしてあの日、翠は初めて変化が出来た。それが嬉しくて、はしゃいだ。鵺の性を抑えることも出来ず、感情に任せて大空へ飛び立った。そしていつの間にか門を抜け、この森に迷い込んでしまったのだ。帰り道が分からないことに動揺した翠は人型にも戻れず、運悪く嵐に見舞われてしまった。そして、雨に体力を奪われ倒れていた所を助けてくれたのが光陽だった。それ以降、翠が迷子になるといつも光陽が探し出してくれるようになった。
『みーつけた』
まるでかくれんぼでもしていたかのように翠を見つ出す光陽の姿は、幼心にとてもかっこよく映っていた。翠にとっては物語の英雄 のような存在だった。
(またここで迷子になるなんて……あの頃から成長できてないんだろうなぁ)
思わず肩を落とす。あれだけ子ども扱いを拒否してきたのに、これでは説得力がない。自分の不甲斐なさを呪いながらも、心のどこかでは、また光陽が見つけに来てくれることを期待していた。
本当に、自分は成長していない――
自分を振り返れば振り返る程、嫌な部分ばかりが目につく。段々と考えることに嫌気がさしてきた。けれど、何もない森の中、体力もない中で出来ることは皆無だ。
(……もう寝よう)
木の根元に横たわり、瞼を閉じる。これ以上余計なことを考えないようにしながらじっとしていると、心地よい睡魔が翠を襲う。その感覚に身を任せ、ゆっくりと眠りに落ちていった。
そしてあの日、翠は初めて変化が出来た。それが嬉しくて、はしゃいだ。鵺の性を抑えることも出来ず、感情に任せて大空へ飛び立った。そしていつの間にか門を抜け、この森に迷い込んでしまったのだ。帰り道が分からないことに動揺した翠は人型にも戻れず、運悪く嵐に見舞われてしまった。そして、雨に体力を奪われ倒れていた所を助けてくれたのが光陽だった。それ以降、翠が迷子になるといつも光陽が探し出してくれるようになった。
『みーつけた』
まるでかくれんぼでもしていたかのように翠を見つ出す光陽の姿は、幼心にとてもかっこよく映っていた。翠にとっては物語の
(またここで迷子になるなんて……あの頃から成長できてないんだろうなぁ)
思わず肩を落とす。あれだけ子ども扱いを拒否してきたのに、これでは説得力がない。自分の不甲斐なさを呪いながらも、心のどこかでは、また光陽が見つけに来てくれることを期待していた。
本当に、自分は成長していない――
自分を振り返れば振り返る程、嫌な部分ばかりが目につく。段々と考えることに嫌気がさしてきた。けれど、何もない森の中、体力もない中で出来ることは皆無だ。
(……もう寝よう)
木の根元に横たわり、瞼を閉じる。これ以上余計なことを考えないようにしながらじっとしていると、心地よい睡魔が翠を襲う。その感覚に身を任せ、ゆっくりと眠りに落ちていった。