第十六話 世話焼きな幼馴染
文字数 885文字
ふと周りを見れば、控えめだが意匠をこらした調度品の数々が目に入る。一目見ただけで、彼が1人で切り盛りするこの店が栄えていることが分かる。素早く丁寧に荷物を運んでくれる、都一の配達屋と評されている。実際、香涼殿も何かを購入した際はお世話になっている。幼馴染の頑張りが見えたような気がして、翠まで誇らしい気持ちになった。そんなことを思っていると、奥から彼が戻ってきた。手には濡れた布と塗り薬らしき入れ物を持っている。彼は黙って翠の隣に腰掛けると、そっと塗り薬の蓋を開けた。
「目、瞑れ。峰隆師匠からこの間もらったばっかりの薬塗ってやるから」
「それは効きそうだね」
大人しく瞼を閉じる。数秒後、ゴツゴツとした指が優しく目元をなぞっていった。指が離れていくと、薬特融のツーンとした感覚がやってくる。
「うー……これ本当に目元に塗って大丈夫なの?」
目元を手で押さえながらそう尋ねれば、水月は笑う。
「大丈夫だって。すぐ効くから。ほら、手ぬぐい」
濡れた手ぬぐいを受け取り、目元に当てればひんやりとした感覚が広がっていく。その心地よさに思わず口元が緩む。そんな翠を見て、彼はまた笑う。
「お前しばらくここで休んでけよ」
「でも、まだ買い物が……」
「その目の状態で行けるのか?」
試すような言葉が投げかけられる。彼の顔は見えないが、おそらく意地悪な目をしているに違いない。まだしばらく目は開けられそうになく、行けなくなることを分かっていてこの男は薬を塗ったんじゃないかと思う。しかも、また翠から言葉を引き出そうとしている。優しいのか意地悪なのか分からない。翠は一度溜息をつき、敗北を認める。
「お使い、代わりにお願いします」
「おう! 何買えばいいんだ?」
「香子様のお好きな藤のお香と、白粉」
「いつもの奴なっ! じゃあ行ってくるっ!」
それだけ聞くと、水月は店を飛び出して行った。店には翠ただ一人が残された。とは言え、目が開けられないのだ。何もできない。大人しく目を冷やしながら待つことにした。
「目、瞑れ。峰隆師匠からこの間もらったばっかりの薬塗ってやるから」
「それは効きそうだね」
大人しく瞼を閉じる。数秒後、ゴツゴツとした指が優しく目元をなぞっていった。指が離れていくと、薬特融のツーンとした感覚がやってくる。
「うー……これ本当に目元に塗って大丈夫なの?」
目元を手で押さえながらそう尋ねれば、水月は笑う。
「大丈夫だって。すぐ効くから。ほら、手ぬぐい」
濡れた手ぬぐいを受け取り、目元に当てればひんやりとした感覚が広がっていく。その心地よさに思わず口元が緩む。そんな翠を見て、彼はまた笑う。
「お前しばらくここで休んでけよ」
「でも、まだ買い物が……」
「その目の状態で行けるのか?」
試すような言葉が投げかけられる。彼の顔は見えないが、おそらく意地悪な目をしているに違いない。まだしばらく目は開けられそうになく、行けなくなることを分かっていてこの男は薬を塗ったんじゃないかと思う。しかも、また翠から言葉を引き出そうとしている。優しいのか意地悪なのか分からない。翠は一度溜息をつき、敗北を認める。
「お使い、代わりにお願いします」
「おう! 何買えばいいんだ?」
「香子様のお好きな藤のお香と、白粉」
「いつもの奴なっ! じゃあ行ってくるっ!」
それだけ聞くと、水月は店を飛び出して行った。店には翠ただ一人が残された。とは言え、目が開けられないのだ。何もできない。大人しく目を冷やしながら待つことにした。