第二十七話 討伐部隊結成

文字数 910文字

 近衛府へと向かった後、門の前で水月は待たされていた。近衛府には重要な機密が多く集められている。いくら旧知の仲とは言え、一般人の水月は入ることを許されなかった。早く助けに行きたい衝動を抑えながら、門にもたれかかる。何もせずにただ待つ時間は、とても長く感じた。



「翠……」



 盗賊を内密に討伐するのだ。人の選別にも準備にも時間がかかるのは水月とて理解できた。だが、こうしている間にも翠は危ない目にあっているかもしれない。そう思うと、気持ちが落ち着かなかった。



 早く――



 どうしようもないのに、気持ちだけが焦っていく。気付けば握った拳にくっきりと爪の跡がついてしまっていた。出発前からこの調子では、足を引っ張ってしまうかもしれない。自分だけが軍人ではないのだ。もっと気を引き締めなければいけない。そんな時だった。門の奥から声をかけられた。



「お待たせ」



 声がした方を振り向けば、絶世の美貌で微笑む光陽の姿。そしてその後ろには、光陽が選んだ部下が続いていた。彼らを見て、水月は思わず眉を顰める。



「この人数で……その装備で賊を討伐できるんですか?」



 選抜された兵は五名。そしてその装備は、巡察にでも出るのかと言いたいくらい軽装だった。一応刀は腰に差してあったが、これで毒爪を持つカマイタチを退治出来るとはとても思えなかった。しかし、光陽はそんな水月の疑問を鼻で笑う。



「真っ向から戦いを挑むわけないだろ? 奇襲をかけるんだからこれくらいでちょうどいい」
「奇襲ってどうやって……奴らがどこを根城にしているかも分からないんでしょ?」
「それはもう翠が突き止めてるさ。だから俺達は翠を見つけ出す。まぁ、すぐ見つかるけど」
「どこからそんな自信が出るんですか」
「翠を見つけるのはいつだって俺だから。ほら、こんな所で話している時間が無駄だから行くよ」



 そう言うと、光陽は先頭を切って歩き始めた。その後ろに部下達が続いていく。危うく置いていかれそうになり、水月は慌ててその後を追いかけた。どこに行くかも知らされないまま、ただ光陽に従って進軍を始めたのだった。


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登場人物紹介

翠(すい):17歳の鵺。力を一部しか使えず、自分に自信がない為、身分や立場にこだわるようになった。身の丈にあった生活をすることが夢であったが、大好きな従姉に請われ、従姉を支える為に出仕した。現在、皇后付き兼帝付きの侍女をしている。幼少期に助けてもらって以来、光陽に恋心を抱いているが、大人になってからは距離を取るようになった。

光陽(こうよう):22歳の鬼と妖狐のハーフ。仕事には真面目であり、現在近衛左中将の地位にある。帝とは乳兄弟で、帝が心を許せる数少ない相手。天然たらしな為、宮中にいる時は周りに女性がいることが多い。が、本人は恋愛に疎く、友情の恋愛の違いが分かっていない。狐の性質が翠に向かいやすく、翠をからかって遊ぶことが好き。皇后からは嫌われているが、自身も皇后を苦手にしている。

有比良(ありひら):銀鬼国の今上帝。この国で最強の鬼で22歳。光陽とは乳兄弟で光陽を信頼している。クールで寡黙だが皇后を溺愛している。後宮には約100人の妃がいる為、光陽からは「ムッツリスケベ」と呼ばれている。

香子(かおるこ):鵺で翠の従姉。皇后として有比良を支える。翠のことになると猪突猛進になりがちで、はっきりしない光陽が嫌い。隙あれば光陽を呪い殺そうとする。

水月(みづき):翠の幼なじみの鵺。鵺としての力は弱いが、配達屋としての地位を確立。貴族からの信頼も厚い。翠が好きだが本人にはこれっぽっちも伝わっていない。

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