第二十九話 巣穴
文字数 720文字
(ここだっ!)
目の前に現れた、ひと際大きな杉の木。そこから一段と強い臭いを感じる。ここが巣と確信し地上に降りれば、木の根元に動物の巣穴があった。カマイタチの物にしては少し大きいが、そこから匂いが漂ってくる。熊か何かの巣を再利用し、使っているのだろう。穴の中を覗いてみるが、奥深く掘り進められており中の様子が分からない。トラツグミの姿で潜入すること自体はたやすいが、今の翠では万が一見つかった時、逃げ切れるかどうか。今すぐに簪を取り返したい衝動と、援軍を呼びに行った方がいいという理性がせめぎ合う。穴の前でどうするべきか迷っていると、森の中から声が聞こえてきた。翠は慌てて飛翔し、別の木の枝に降り立つ。やってきたのは翠と遭遇したものとは別のカマイタチ二匹だった。身を縮めながら様子を伺うと、翠がいるとは知らないカマイタチは仕事への愚痴をこぼす。
「この仕事だるいよなぁ。毒の爪はありがたいけど……」
「ちまちま部屋を漁るより荷馬車襲う方が楽だよな。なんでお頭はこんな仕事受けたんだ」
「なんでも、白牙国の爺さんがかなりの金額提示してきたらしい。全員がしばらく遊んで暮らせる位の金を前払いでもらっているって聞いた。しかも成功したら追加で金を出すらしい」
「へぇ。じゃあさっさとこの装飾、爺さんに渡して仕事終わらせようぜ」
「おうよ!」
見られているとは最後まで気づかず、二匹は先ほどの穴の中へと姿を消していった。見つからなかったことにホッとしながら、木の下に降り立つ。この穴の中に一体何人いるか分からない。今のまま潜入しても狩られるだけだ。ようやく冷静さを取り戻した翠は、援軍を連れてくる為に来た道を戻っていった。
目の前に現れた、ひと際大きな杉の木。そこから一段と強い臭いを感じる。ここが巣と確信し地上に降りれば、木の根元に動物の巣穴があった。カマイタチの物にしては少し大きいが、そこから匂いが漂ってくる。熊か何かの巣を再利用し、使っているのだろう。穴の中を覗いてみるが、奥深く掘り進められており中の様子が分からない。トラツグミの姿で潜入すること自体はたやすいが、今の翠では万が一見つかった時、逃げ切れるかどうか。今すぐに簪を取り返したい衝動と、援軍を呼びに行った方がいいという理性がせめぎ合う。穴の前でどうするべきか迷っていると、森の中から声が聞こえてきた。翠は慌てて飛翔し、別の木の枝に降り立つ。やってきたのは翠と遭遇したものとは別のカマイタチ二匹だった。身を縮めながら様子を伺うと、翠がいるとは知らないカマイタチは仕事への愚痴をこぼす。
「この仕事だるいよなぁ。毒の爪はありがたいけど……」
「ちまちま部屋を漁るより荷馬車襲う方が楽だよな。なんでお頭はこんな仕事受けたんだ」
「なんでも、白牙国の爺さんがかなりの金額提示してきたらしい。全員がしばらく遊んで暮らせる位の金を前払いでもらっているって聞いた。しかも成功したら追加で金を出すらしい」
「へぇ。じゃあさっさとこの装飾、爺さんに渡して仕事終わらせようぜ」
「おうよ!」
見られているとは最後まで気づかず、二匹は先ほどの穴の中へと姿を消していった。見つからなかったことにホッとしながら、木の下に降り立つ。この穴の中に一体何人いるか分からない。今のまま潜入しても狩られるだけだ。ようやく冷静さを取り戻した翠は、援軍を連れてくる為に来た道を戻っていった。