第四話 正反対な従姉

文字数 855文字

 だが、その一件があってから、従姉は今まで以上に翠に執着し、光陽のことを嫌うようになっていったのだ。従姉をこんな風にしてしまったのは、まぎれもなく自分。彼女の気持ちを静めるのも、自分の役割だ。不敬かもしれないが、彼女の背中に腕を回し、言葉を紡ぐ。



香子(かおるこ)様、今日は何もされていませんし、話してすらいませんから」
「本当でしょうね? 嘘ついたらお従姉ちゃん怒るわよ?」
「嘘ではありません。それから、主上からお言葉を預かりました。今宵お渡りになられるそうです」



 主上、ということばにピクリと反応する。無言で翠を離すと、鏡台に向かい、念入りにお肌の点検(チェック)をする。それに倣い、控えていた侍女たちが白粉と紅を持ち、皇后の美貌を更に整えていく。どれだけ従妹に重たい愛情を向けようと、彼女は皇后。彼女の一番は帝であり、お勤めのことは忘れていない。こういう所は流石だと感心しながら、翠も襟元を整え、誰より美しいぬばたまの髪を櫛ですいていく。



「香子様の髪はいつも綺麗ですね」



 スルスルッと指の間をすり抜けていく極上の絹を触りながら、思わず独り言つ。絹の持ち主はくすりと笑い、侍女を試す。



「あら? 綺麗なのは髪だけ?」
「まさか。香子様はどこを見ても綺麗です。だからこそ、あの主上の寵姫であられるのでしょう?」



 正解を告げれば、嬉しそうに主は微笑み、頬を朱に染める。「当然よ」と告げる従姉は、自信に満ち溢れ、とても輝いていた。



 自分に絶対的な自信を持つ従姉は、自分とは正反対。絶対に従姉にはなれない。けれど、こうして側で支えられるだけで翠は幸せだった。少しどころか、かなり愛情は重たいが、従姉の幸せそうな姿を見るだけで自分も幸せになれる。それ以上の幸せは望んでいない。



 そんな他愛もない会話を交わしながら身支度を整える。元の素材がいいこともあり、四半刻もすれば自慢の美貌に更に磨きのかかった寵姫が出来上がった。後は帝のお渡りを待つだけ……


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登場人物紹介

翠(すい):17歳の鵺。力を一部しか使えず、自分に自信がない為、身分や立場にこだわるようになった。身の丈にあった生活をすることが夢であったが、大好きな従姉に請われ、従姉を支える為に出仕した。現在、皇后付き兼帝付きの侍女をしている。幼少期に助けてもらって以来、光陽に恋心を抱いているが、大人になってからは距離を取るようになった。

光陽(こうよう):22歳の鬼と妖狐のハーフ。仕事には真面目であり、現在近衛左中将の地位にある。帝とは乳兄弟で、帝が心を許せる数少ない相手。天然たらしな為、宮中にいる時は周りに女性がいることが多い。が、本人は恋愛に疎く、友情の恋愛の違いが分かっていない。狐の性質が翠に向かいやすく、翠をからかって遊ぶことが好き。皇后からは嫌われているが、自身も皇后を苦手にしている。

有比良(ありひら):銀鬼国の今上帝。この国で最強の鬼で22歳。光陽とは乳兄弟で光陽を信頼している。クールで寡黙だが皇后を溺愛している。後宮には約100人の妃がいる為、光陽からは「ムッツリスケベ」と呼ばれている。

香子(かおるこ):鵺で翠の従姉。皇后として有比良を支える。翠のことになると猪突猛進になりがちで、はっきりしない光陽が嫌い。隙あれば光陽を呪い殺そうとする。

水月(みづき):翠の幼なじみの鵺。鵺としての力は弱いが、配達屋としての地位を確立。貴族からの信頼も厚い。翠が好きだが本人にはこれっぽっちも伝わっていない。

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