第四十四話 北へ
文字数 765文字
激しく打ち付ける雨の中、老人は森の中を進み、北へ北へと急いでいた。その足取りは老人のそれにしては軽快で、顔は些か高揚していた。
「久々に面白いものが見られたわい」
柄にもなく、心が躍るのを感じながら先ほどの光景を思い返す。
カマイタチと対峙する底なしの力を持った妖狐と、人型のまま力を使う鵺――
どちらも通常の妖怪のそれとは全く異なる力の持ち主だった。王に匹敵する力を持っているのではないだろうか。特に鵺の方は、力の調節 が出来ないようだったが、それは力を封じられているからだろうと老人は睨んでいた。でなければ、人型のまま力を使えることの説明がつかない。通常、妖怪は人型のまま力を使うことは出来ないのだから。どんな理由で封じられたかは分からないが、封じられてもなお人型のままあれだけの力を使えるのだ。封印が解かれた時、どれほどの力になるのか。想像しただけでも身震いがする。このことをガシャドクロが知れば、同じように胸を高鳴らせるに違いない。いつの間にか自分も主に似てしまったようだ、と苦笑いをしながら、懐の袋から簪を取り出す。
「この簪も、もしかするとあ奴の物かもしれぬな」
カマイタチが集めてきた中で、ひと際強い力を秘めた簪。あの騒動の中で持ち出せた物はわずかだったが、これ一つで儀式は十分執り行える。それに、これを使うことで自分が伝えなくとも主は鵺に興味を持つかもしれない。そうなった時、主はどういう行動を取るのか。凡人たる老人には全く想像がつかなかった。分からないからこそ、興味が沸くというものだ。
「今から楽しみじゃな」
その為にも、まずはこの簪を届けることが自分の使命。老人は飄々と木々をかいくぐりながら自国へと足早に進んでいったのだった。
「久々に面白いものが見られたわい」
柄にもなく、心が躍るのを感じながら先ほどの光景を思い返す。
カマイタチと対峙する底なしの力を持った妖狐と、人型のまま力を使う鵺――
どちらも通常の妖怪のそれとは全く異なる力の持ち主だった。王に匹敵する力を持っているのではないだろうか。特に鵺の方は、力の
「この簪も、もしかするとあ奴の物かもしれぬな」
カマイタチが集めてきた中で、ひと際強い力を秘めた簪。あの騒動の中で持ち出せた物はわずかだったが、これ一つで儀式は十分執り行える。それに、これを使うことで自分が伝えなくとも主は鵺に興味を持つかもしれない。そうなった時、主はどういう行動を取るのか。凡人たる老人には全く想像がつかなかった。分からないからこそ、興味が沸くというものだ。
「今から楽しみじゃな」
その為にも、まずはこの簪を届けることが自分の使命。老人は飄々と木々をかいくぐりながら自国へと足早に進んでいったのだった。