第四十六話 朝廷での報告
文字数 1,119文字
そして、翌朝――
残っていた仕事を片付けていたら、結局一睡も出来なかった。だが、これで事件に関する急ぎの仕事は全て片付いた。朝廷さえ終われば、今日は屋敷に帰れそうだ。それだけを楽しみに身支度を整えた。目の下にくっきりとついた隈は白粉でごまかしたが、頭は冴えず何度も机や壁にぶつかる。そんなヨロヨロの光陽を心配そうに見送る部下達を背に、重たい足取りで朝廷へと向かった。
光陽が到着した頃には、すでに主だった官は揃っていた。針のように突き刺さる視線を背に、用意された席へと座る。まるで針のむしろにでもなった気分だった。もう早く終わらせて帰りたい。そう思う位には、心身ともに限界を迎えていた。
「帝のお出ましである。皆の者、面を下げよ」
太政大臣の号令が響き、礼を執る。帝が上座に腰掛けると、官達はゆっくりと頭を上げた。全員の顔が上がった所で、帝から命令が下る。
「よく集まってくれた。今日は先日の盗賊の件について、近衛左中将から報告をしてもらう。左中将、皆に説明を」
一度、帝と目が合った。一度大きく頷くと、光陽は一歩前に出て官達に説明を始める。
「四日前、北の山で盗賊の一味を捕らえました。討伐隊に被害はありません。また、盗賊も生け捕りにしており、現在事情聴取中です。盗賊の頭の話によりますと、白牙から来た老人に頼まれ、毒の爪と金銭を受け取る代わりに装飾品を集めていたそうです。我らが巣穴に到着した頃には、その老人はいなくなっていました。装飾品の一部もなくなっており、おそらくその老人が北に持ち帰ったものと思われます」
朝廷がざわつく。一人取り逃がしてしまったのだ。当然の反応だろう。取り逃した光陽を小声で罵る者もいたが、右から左に聞き流しながら、光陽は言葉を続ける。
「現在、老人については行方を捜させております。しかし、盗賊自体は全員捕らえておりますので、毒の爪による襲撃はひとまず収まるかと。また、被害にあった娘ですが、十二名が毒により死亡、一名は命を取り留めております。カマイタチの持っていた装飾品につきましては、家族にも見ていただき持ち主が判明した物から順次返却を進めております。以上が、本件に関する私からの報告です」
一礼をして、元の場所に戻る。顔を上げて周囲に目を向ければ、官達は様々な反応を示していた。毒の爪の脅威が収まったことで安堵する者、老人を取り逃したことで危機感を抱いている者、何かを考え沈黙している者。そんな中、帝だけは最初から表情を崩さず、ただ官達の成り行きを見守っていた。一体何を考えているのか、その表情からは計り知れなかった。
残っていた仕事を片付けていたら、結局一睡も出来なかった。だが、これで事件に関する急ぎの仕事は全て片付いた。朝廷さえ終われば、今日は屋敷に帰れそうだ。それだけを楽しみに身支度を整えた。目の下にくっきりとついた隈は白粉でごまかしたが、頭は冴えず何度も机や壁にぶつかる。そんなヨロヨロの光陽を心配そうに見送る部下達を背に、重たい足取りで朝廷へと向かった。
光陽が到着した頃には、すでに主だった官は揃っていた。針のように突き刺さる視線を背に、用意された席へと座る。まるで針のむしろにでもなった気分だった。もう早く終わらせて帰りたい。そう思う位には、心身ともに限界を迎えていた。
「帝のお出ましである。皆の者、面を下げよ」
太政大臣の号令が響き、礼を執る。帝が上座に腰掛けると、官達はゆっくりと頭を上げた。全員の顔が上がった所で、帝から命令が下る。
「よく集まってくれた。今日は先日の盗賊の件について、近衛左中将から報告をしてもらう。左中将、皆に説明を」
一度、帝と目が合った。一度大きく頷くと、光陽は一歩前に出て官達に説明を始める。
「四日前、北の山で盗賊の一味を捕らえました。討伐隊に被害はありません。また、盗賊も生け捕りにしており、現在事情聴取中です。盗賊の頭の話によりますと、白牙から来た老人に頼まれ、毒の爪と金銭を受け取る代わりに装飾品を集めていたそうです。我らが巣穴に到着した頃には、その老人はいなくなっていました。装飾品の一部もなくなっており、おそらくその老人が北に持ち帰ったものと思われます」
朝廷がざわつく。一人取り逃がしてしまったのだ。当然の反応だろう。取り逃した光陽を小声で罵る者もいたが、右から左に聞き流しながら、光陽は言葉を続ける。
「現在、老人については行方を捜させております。しかし、盗賊自体は全員捕らえておりますので、毒の爪による襲撃はひとまず収まるかと。また、被害にあった娘ですが、十二名が毒により死亡、一名は命を取り留めております。カマイタチの持っていた装飾品につきましては、家族にも見ていただき持ち主が判明した物から順次返却を進めております。以上が、本件に関する私からの報告です」
一礼をして、元の場所に戻る。顔を上げて周囲に目を向ければ、官達は様々な反応を示していた。毒の爪の脅威が収まったことで安堵する者、老人を取り逃したことで危機感を抱いている者、何かを考え沈黙している者。そんな中、帝だけは最初から表情を崩さず、ただ官達の成り行きを見守っていた。一体何を考えているのか、その表情からは計り知れなかった。