第四十話 妖狐と頭
文字数 1,024文字
そして、十分が経過した――
「撃ち方やめ! 翠、壁解いて」
どこからともなく、光陽の命令が響く。壁を解けば、そこには十匹程のカマイタチが倒れていた。あまりに悲惨な光景に、つい手で口を覆う。あの矢の雨の中、全員が息をしていることが奇跡のようだった。光陽がいつも部下のことを自慢げにしているのが、分かるような気がした。そんな時だった。カマイタチが折り重なっていた山がモゾモゾと動く。やがて、一回り大きなカマイタチの頭が姿を現した。血走った目で正面を睨みつけながら、頭は語気を強め叫ぶ。
「何者か知らねーがどこに隠れてやがる! 出てこい! 八つ裂きにしてやるっ!」
「八つ裂きにされるのはちょっと困るが……俺もお前と話がしたい」
ゆっくりと、光陽が頭の前に出る。しかしその姿は、人型でも獣でもなかった。
長い銀色の髪から生える白い狐の耳――
そして、動くたびに揺れる尾――
この国でも珍しいとされる、白銀の妖狐の姿がそこにはあった。神々しいその姿に、翠は思わず見とれる。幼少期から何度も見たことがある姿だが、何度見ても慣れない。彼が変化をした姿はこの世の物とは思えないほどの美しさがあり、釘付けになってしまうのだ。そしてそれは翠だけではなく、頭も同じようだった。先ほどまでの威勢が鳴りを潜め、口をぽかんと開けて光陽を見ている。もはやこれを狙ってわざと変化をして出てきたのではないかと思うほどだった。そんな周りの思いを知ってか知らずか、光陽はその顔 に笑みを浮かべる。
「お前が盗賊の頭か?」
「あ、あぁ……お前は?」
「俺は光陽。銀鬼国で近衛左中将をしている」
「近衛……帝の側近様がわざわざ盗賊風情を捕まえに来たなんて、俺達をよっぽど脅威に感じてくれたんだな」
「白牙から来て毒をまき散らしてるんだ。十分脅威だろ。ところで……」
その顔から、笑みを消す。色を無くした瞳で頭に問い詰める。
「ガシャドクロは何が目的でこんなことを始めた?」
「さてな! 俺らが知るわけねーだろ!」
言葉を言い捨てると同時に、無数の風を光陽に向かって放つ。真上に跳び斬撃を避けると、青
白い火の玉を頭に投げつけた。しかし、光陽の攻撃もまた頭に避けられ、追撃が来る。技を出しては避け、また技を出す。そんな攻防が二人の間で繰り広げられていた。誰も、二人の間には割って入れなかった。
「撃ち方やめ! 翠、壁解いて」
どこからともなく、光陽の命令が響く。壁を解けば、そこには十匹程のカマイタチが倒れていた。あまりに悲惨な光景に、つい手で口を覆う。あの矢の雨の中、全員が息をしていることが奇跡のようだった。光陽がいつも部下のことを自慢げにしているのが、分かるような気がした。そんな時だった。カマイタチが折り重なっていた山がモゾモゾと動く。やがて、一回り大きなカマイタチの頭が姿を現した。血走った目で正面を睨みつけながら、頭は語気を強め叫ぶ。
「何者か知らねーがどこに隠れてやがる! 出てこい! 八つ裂きにしてやるっ!」
「八つ裂きにされるのはちょっと困るが……俺もお前と話がしたい」
ゆっくりと、光陽が頭の前に出る。しかしその姿は、人型でも獣でもなかった。
長い銀色の髪から生える白い狐の耳――
そして、動くたびに揺れる尾――
この国でも珍しいとされる、白銀の妖狐の姿がそこにはあった。神々しいその姿に、翠は思わず見とれる。幼少期から何度も見たことがある姿だが、何度見ても慣れない。彼が変化をした姿はこの世の物とは思えないほどの美しさがあり、釘付けになってしまうのだ。そしてそれは翠だけではなく、頭も同じようだった。先ほどまでの威勢が鳴りを潜め、口をぽかんと開けて光陽を見ている。もはやこれを狙ってわざと変化をして出てきたのではないかと思うほどだった。そんな周りの思いを知ってか知らずか、光陽はその
「お前が盗賊の頭か?」
「あ、あぁ……お前は?」
「俺は光陽。銀鬼国で近衛左中将をしている」
「近衛……帝の側近様がわざわざ盗賊風情を捕まえに来たなんて、俺達をよっぽど脅威に感じてくれたんだな」
「白牙から来て毒をまき散らしてるんだ。十分脅威だろ。ところで……」
その顔から、笑みを消す。色を無くした瞳で頭に問い詰める。
「ガシャドクロは何が目的でこんなことを始めた?」
「さてな! 俺らが知るわけねーだろ!」
言葉を言い捨てると同時に、無数の風を光陽に向かって放つ。真上に跳び斬撃を避けると、青
白い火の玉を頭に投げつけた。しかし、光陽の攻撃もまた頭に避けられ、追撃が来る。技を出しては避け、また技を出す。そんな攻防が二人の間で繰り広げられていた。誰も、二人の間には割って入れなかった。