第十一話 事情聴取

文字数 1,079文字

「まず1つ目。娘はどの段階で賊に気付いたんだ?」



 その問いかけに、商人は困ったように眉を下げる。



「それが……娘はあれから言葉を発してくれなくて」
「言葉を発さない? どういうこと?」
「私が娘の部屋に駆け付けた時から、声が出ないのか、口を開閉するのみで……」



 おかしい――



 報告にあったカマイタチの特徴では、薬を塗って止血するのみであり、傷をつけられた者が喋れなくなるということはなかったはずだ。



「今、娘は?」
「医師に診ていただいています。詳しくは後程報告が来るかと。ただ少し熱があるようです」



 もしかすると、こちらの情報にあるカマイタチとは違うのかもしれない。頭の中では警鐘が鳴り響いている。より事態は深刻なのかもしれない。光陽は商人にばれないように、そっと拳を握り直した。



「じゃあ娘のことが何か分かれば教えて。次に、引き出しの中身のことだけど、装飾品が入っていたということで間違いない?」
「はい。着飾ることが趣味でしたから。そうは言っても、自分の給金で買える範囲ですので、そんなに高い値の物ではないです」
「自分の給金?」
「娘は宮廷で女御様付きの侍女をしております。」
「へぇ……商家の娘なのに珍しいな」



 商家の娘なのだから、働かなくともお金には困らないだろうに。感心な娘だと思っていると、商人が溜息をついた。



「あまりに浪費が激しいので、自分で稼ぐように言いました」



 その小さい肩から哀愁が漂っている。商人の苦労が垣間見え、何も言えなかった。真面目な商人の娘がどうしてなのか。同情したくなるが、今はそんなことを言っている場合ではない。一つ咳払いをし、話を戻す。



「……じゃあ、具体的にどんな物が入っていたか分かるか?」
「全て覚えているわけではございませんが……確か、首飾り、指輪、腕輪、簪、飾り紐だったかと」
「ふーん……じゃあ大体の数は?」
「せいぜい三十程度かと」
「分かった。ありがとう。教えてくれて。娘のことが心配な時に、悪かった」



 そう光陽が声をかけると、商人は目を潤ませていた。気丈に話しているが、やはり一人の父親。心配なのだろう。



「ほら、早く娘の所に戻れ。娘も心細いだろ?」
「お気遣い、ありがとうございます。それでは、失礼いたします」



 一礼して、商人は部屋を出ていく。きっちり椅子を片づけていくことは忘れていなかった。よく気配りの出来る男だと感心する。この先も、友好関係を築いていきたい。そう思わせる人物だった。



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登場人物紹介

翠(すい):17歳の鵺。力を一部しか使えず、自分に自信がない為、身分や立場にこだわるようになった。身の丈にあった生活をすることが夢であったが、大好きな従姉に請われ、従姉を支える為に出仕した。現在、皇后付き兼帝付きの侍女をしている。幼少期に助けてもらって以来、光陽に恋心を抱いているが、大人になってからは距離を取るようになった。

光陽(こうよう):22歳の鬼と妖狐のハーフ。仕事には真面目であり、現在近衛左中将の地位にある。帝とは乳兄弟で、帝が心を許せる数少ない相手。天然たらしな為、宮中にいる時は周りに女性がいることが多い。が、本人は恋愛に疎く、友情の恋愛の違いが分かっていない。狐の性質が翠に向かいやすく、翠をからかって遊ぶことが好き。皇后からは嫌われているが、自身も皇后を苦手にしている。

有比良(ありひら):銀鬼国の今上帝。この国で最強の鬼で22歳。光陽とは乳兄弟で光陽を信頼している。クールで寡黙だが皇后を溺愛している。後宮には約100人の妃がいる為、光陽からは「ムッツリスケベ」と呼ばれている。

香子(かおるこ):鵺で翠の従姉。皇后として有比良を支える。翠のことになると猪突猛進になりがちで、はっきりしない光陽が嫌い。隙あれば光陽を呪い殺そうとする。

水月(みづき):翠の幼なじみの鵺。鵺としての力は弱いが、配達屋としての地位を確立。貴族からの信頼も厚い。翠が好きだが本人にはこれっぽっちも伝わっていない。

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