襲われて拐われて

文字数 1,220文字

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「で、警察に通報した、と」

 森巣がいつの間にかメモ帳を開き、ペンを走らせていた。交番での聴取を思い出しながら、姿勢を正して頷く。これが、僕のクビキリ発見のあらましだ。

「森巣は、僕が見たのは犯人だったと思う?」
「可能性としては高いんじゃないかな」
「あっちが第一発見者で、僕を見て犯人だと思って逃げたってことはないかな?」

 ここ数日考えていたことを訊ねてみると、森巣はじっと僕の顔を見つめ、苦笑しながら首を横に振った。

「俺が仮に第一発見者で動揺していたとする。それでも、平は人の良さそうな顔をしているから、暗闇の中で平を見ても逃げないと思う」
「人は見かけによらないじゃないか」
「平が犯人なの?」
「まさか!」
「という訳で少なくとも、自転車を押して現れた平を犯人だとは思わないかな。それにしても災難というか、平もとんでもない所に居合わせたね。無事でよかった」
「本当に、そうだよね。犯人が襲って来なくてよかったよ」
「犯人の特徴は他に覚えてないの? 男だった? 女だった?」

 訊ねられ、ええっと、と思い出す。

「ガッシリとした体格ってわけじゃないけど、男だったと思う。髪の長さはフード被ってたからわからないけど、線は細くなかったし」
「身長は?」
「百七十前後くらいじゃないかな。僕らと同じくらいだよ。あ、あと、さっきも言ったけど、パーカーの背中に、白い文字で大きくXXXって書かれてた。流行ってるブランドとかデザインだったりする?」
「いやあ、聞いたことないな」

 僕の話をずいぶん熱心に聞いてくれるなあ、となんだか嬉しく思うが、僕が危険なことに関わらせているような気もして心配になった。

「平は瀬川の犬がいなくなる前にクビキリと犯人を見ているから、不安に思ってるわけだ。でも、瀬川の犬は散歩中に迷子になっただけなんだろ? 心配ではあるけど、そこまで深刻にならなくてもいいんじゃないかな」

 どうしよう、これ以上森巣に話をするべきか。瀬川さんの役に立ちたいけど、森巣に同じ苦しみを味わわせたくもない。

 逡巡しながらコーヒーに手を伸ばす。すっかり冷めていて、渋い気持ちになる。

「それで?」と森巣が顔を上げた。
「それで?」と僕は訊ね返す。

「まだあるんだろ?」
「なんでわかったの?」

「平は顔に出やすいんだよ」

 森巣が指摘し、親しげに頬を緩める。
 さあ、話してよと促され、僕は口を開いた。

「……実は、瀬川さんの犬、ただ散歩中にいなくなったってわけじゃないんだ」

 どういうことか? と森巣が眉間に皺を寄せる。

「散歩中に、襲われて、拐われたんだ」

 そう教えた時、入店を知らせるカウベルが鳴った。視線を向けると、ちょうど瀬川さんがやって来たところだった。
 瀬川さんが僕を見て手をあげ、向かいの席の森巣を見て目を丸くする。

「続きは瀬川さんの口から」 
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